独立リーグのきっかけは大学の講義
DeNAから育成ドラフト1位で指名された笠井崇正投手。笠井は今季プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの信濃グランセローズでプレーし、150キロを超えるストレートを武器に35試合に登板して、防御率2.43を記録した。
この1年信濃でプレーした笠井だが、現役の早稲田大学生だ。笠井は硬式野球部に入部するも早々に退部。3年間本格的な野球生活から離れ、なぜ彼は独立リーグでプレーすることを選択したのか…。きっかけは早稲田大学の講義にあったという。野球の授業の講師が現役時代2度の首位打者に輝き、通算2062安打を記録した元中日の谷沢健一さんだった。
その谷沢さんから「1年か2年の時に最初は冗談だったけど、独立リーグでも行ってみたらどうだ」と言われたことが笠井の頭に強く残っていた。
「就活が本格的に始まる前で普通に就職も考えていた。その前に合格、不合格でも区切りをつけるという意味で受験しました」。大学3年の11月に行われた独立リーグのトライアウトに受験することを決意した。
学業と両立した独立リーグ生活
トライアウトを経て、笠井は信濃からドラフト2位で指名され入団。“学生”と“独立リーガー”の二刀流生活が始まった。
笠井は早稲田大の野球部を2日で退部して以降、大学3年間は本格的な練習をやってこなかったそうだが、「(トライアウトのときの)球速は高校のときと変わらなかった。体力が戻れば、徐々に(ストレートのスピード)は伸びていくなという感覚はあった」と当時を振り返る。
毎日、コーチ、トレーナーが相談したランメニューをこなし、体幹トレーニング、その他にも週1回は最低でもウエートトレーニングを行った。「トレーニングを継続した結果」とストレートの球速は約5キロ上がり、シーズン終盤には自己最速の151キロを計測した。
また、現役時代に近鉄、楽天でリリーフ投手として活躍した有銘兼久コーチの存在も大きかったという。「自分の売りはストレート。それを活かすためには変化球でストライクが取ることが重要だということをキャンプ、合同自主トレから言われていた。それがやっぱり一番大きかったと思います」。有銘投手コーチに感謝した。
学業でも、卒業するためには単位が必要になる。シーズン中は「パソコンで授業を受け、ゼミは別の課題をもらってやっていました」と学業も疎かにすることはなかった。
プロの道をこじ開ける
元中日・谷沢さんの何気ない一言から独立リーグ挑戦を決意した大学生は、“学業”と“独立リーガー”の二刀流生活を送りながら、ドラフト当日を迎えた。そして10月20日の「プロ野球ドラフト会議2016」でDeNAから育成ドラフト1位指名を受け、プロ入りの切符を掴んだ。
現役大学生でありながら、独立リーグでプレーし、プロの球団から指名された話はなかなか聞かない。だからこそ笠井は「入団して活躍できず育成のまま終わると、一般的な道から外れた選手のチャンスを小さくしてしまうと思う」と話す。
「自分がしっかり一軍で長く活躍して、僕のような経歴だったり、独立リーグ・BCリーグの選手が同じように評価されるように頑張ろうと思います」。谷沢さんの一言がきっかけでプロの道を切り開いた笠井は、“第2、第3の笠井”がプロの門に叩けるようにするため、1日も早く支配下登録を目指す。
▼ 笠井崇正投手のプロフィール
生年月日:1994年8月7日
身長/体重:179センチ/92キロ
経歴:早稲田大(在学中)、信濃-DeNA
成績:35試 3勝1敗1S 防2.43
取材・文=岩下雄太