白球つれづれ2017 ~第6回・オリックスの逆襲~
春の珍事と言ってはファンに失礼か。御年81歳、老オーナーの怒りが通じたか? オリックスの逆襲が始まった。
開幕カードの楽天戦に3連戦3連敗。昨年に続き最下位候補の筆頭と目され、まさにお先真っ暗なスタート。ところが続く西武との戦いから連勝、さらに昨季、日本一の日本ハム相手に3連勝でついに白星街道は「5」に伸びた。
チームにとって貯金生活は14年以来実に3季ぶりなら10日現在のリーグ順位も楽天に次ぐ2位でこちらも3年ぶりだ。地獄から天国。ジェットコースターのような10日間となった。
最も優勝から遠ざかっているチーム
96年の日本一を最後に低迷が続いている。昨年、広島がペナントを手にしたことにより12球団で最も優勝から遠ざかっているチームだ。この体たらくにはオーナーの宮内義彦も怒り心頭、カネも出すが口も出すとばかりに近年は舌鋒鋭く変革を迫る。
「何ですか? あの守備は。あのイニング、記録にならないボーンヘッドも含めていくつエラーがあったか」
3月31日の開幕楽天戦を4-6で失った直後の「宮内語録」である。この試合、3回の守備の乱れが致命傷となった。これよりさかのぼること1カ月半前の春季キャンプにやってきた同オーナーは、全選手を前に激励を飛び越してこんな公開説教までしてしまう。
「(前年)最下位のうちが順調なキャンプではいかんのです。(他球団には出来ないほどの)クレージーなキャンプをやらないかん」
愛すればこそ
今や、日本を代表する経済人だが、88年に阪急ブレーブスを買収したときはオリックスの前身の社名である「オリエントリース」と聞いても知名度は低く、マスコミは会社確認に追われたほど。
わずか20年足らずで社業に隆盛をもたらし、自らも小泉内閣時代に行革本部の座長を務めるなどトップの座を上り詰めた。それだけに分身のように愛するチームの低迷には心を痛めている。
野球界のオーナーと言えば、巨人軍の元オーナーで現読売新聞主筆の渡辺恒雄が常に話題の中心にいるがこの人、本来は野球の門外漢だった。ところが宮内オーナーの場合はちょっと事情が異なる。
子供のころからの野球好きが高じて社長業の合間を縫ってはプレーを続けてきた。それも70歳代を過ぎてからも東西財界人野球大会に出場、左腕からの華麗なフォームを披露しているのだ。だからこそ注文も口ぶりも「激辛」になるのだろう。
経営者は投資をすれば、それに見合うリターン(収益)を計算する。球団もこの数年、日本ハムから糸井嘉男(現阪神)や小谷野栄一、さらに元西武の中島宏之らを大型補強してきたが浮上のきっかけはつかめていない。堪忍袋の緒が切れる直前だった宮内にとって、この5連勝はどう映ったのだろうか?
有言実行!?
3連敗直後の西武戦。メットライフドームで練習を開始すると全選手が奇声に近いほどの大声を張り上げていた。暗くなるムードを一掃しようとする首脳陣の指令だろうが、オーナーが求める「クレージーなほどの」光景だった。
昨年は失敗に終わった外国人選手だが、今年はロメロがすでに8試合で4発、投手もコークが初勝利をあげている。元々、投手スタッフには定評があったのだから打線の奮起次第では台風の目となる可能性はある。
開幕直後とは言え、万年Bクラス候補だった楽天とオリックスが大本命のソフトバンクより上にいると誰が予想できただろう。昨年は広島のオーナー・松田元のチーム愛が結実した。今年は宮内語録に注目だ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)