イーグルス期待の大砲も…
2008年、東北楽天ゴールデンイーグルスからドラフト2位の高評価を受け、愛知・桜丘高校初のプロ野球選手となった中川大志。186センチの堂々たる体躯から放たれる、豪快なアーチが魅力だった右の大砲は、ルーキー時に在籍していた山崎武司や中村紀洋からも一目置かれるほど際立っていた。
ファームで鍛練を積み重ね、3年目の2011年にはイースタン・リーグで打点王のタイトルを獲得。今後の活躍に大きな期待が寄せられたが、この年の秋季キャンプで以前から痛めていた右膝が悲鳴あげる。手術に踏み切り、育成選手として再スタート。懸命なリハビリの成果もあり、2012年の暮れには再び支配下登録選手に。入団以来背負っていた背番号56を再びつける事になった。
誰もが認める練習量で、2013年にはイースタンの本塁打王と打点王の2冠に輝くと、2015年には一軍の晴れ舞台で初ホームランを記録。サヨナラホームランや2打席連続ホームランなど、記憶に残る活躍を見せたが、この後が続かなかった。
楽天時代のクライマックスはこの年の交流戦まで。二軍では結果を残すが、一軍では結果が出ない。結局“一軍半”の立場を抜け出せず、2017年オフに戦力外宣告を受けた。
新天地での役割と変化
捨てる神あれば、拾う神あり。右の長距離砲に目を付けたのは、DeNAベイスターズだった。
楽天時代にスタメンで出場していた時は、1打席目で打てたボール、もしくは打てなかったボールを頭にインプットし、狙い球を明確にしてから次の打席に臨んだ。気持ちを整理し、捕らえられると信じたボールを待つ。これが中川のスタイルだった。
しかし、ベイスターズで期待されている役割は「ピンチヒッター」。1打席に全てを賭ける代打屋稼業は、今までのスタイルでは通用しない。まずはマインドを変える必要があった。バッターボックスに向かう際に集中力を高め、「絶対に打つ」という強い思いを持ちながらも、空回りしないように冷静さも保つ。「ハートは熱く、心はクールに」を心掛けている。
技術的には、ラミレス監督からアドバイスされた「打席の前寄りに立つ」ことを実践している。去年までは打席の一番後ろに立っていたが、前に立つことで、変化球に対して前で捌くことが出来る。元々得意なストレートには、今までと同じ様に対処ができた。長年後ろに立っていたため、最初は戸惑う気持ちもあったが、今では違和感がなくなってきたという。
また、ファーストストライクから、自分の打てるボールは確実に仕留める。アグレッシブに振っていく事で結果を出していくしかない。キャリアハイの数字を残した2015年よりも、技術的には上がっていると実感しており、本人も手応えは感じている。
代打の切り札として
移籍初年度の今年は、開幕を一軍で迎えると、自身のデビュー戦となった3月31日のヤクルト戦でヒットを放つ。すると2打席目となった4月12日の巨人戦でもヒットを記録。特に印象に残る一打だったのは、4月21日のヤクルト戦だ。1点ビハインドの9回一死2塁の場面で代打として起用されると、センターの頭を越すフェンス直撃の適時二塁打をかっ飛ばし、土壇場で試合を振り出しに戻した。
右の代打陣には、ベテランの“ゴメス”後藤武敏、“ジャイアン”白根尚貴、“若き大砲”細川成也、“時代のヒーロー”白崎浩之らがいるが、彼らを押し退けて、現在堂々と代打の一番手の座を掴んでいる。しかも相手ピッチャーが右で左でも、大事な場面で起用されている。ラミレス監督の信頼度が高い証拠だろう。今のところ「右の代打の一番手を確立する」という目標は達成できている。
同じ右の大砲として、イースタン・リーグでともに突出した結果を残していた、同期入団の大田泰示は、新天地となった北の大地で開花した。環境の変化が好成績につながった良い例と言えるだろう。ポテンシャルでは大田にもひけを取らない中川も、新天地の横浜で開花する可能性はあるはずだ。
フリーバッティングでは、右に左に軽々とスタンドに放り込む。「練習では飛ぶんですけどね」とはにかみながら笑うが、そのパワーは魅力十分。大洋時代から、チームの顔は右の大砲。松原誠、田代富雄、村田修一のように、ロマン溢れる豪快なアーチを、ファンは待っている。レギュラーへの道は険しいが、その名のとおり、志を高く希望の道を切り拓いてほしい。
取材・文= 萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)