コラム 2019.04.08. 18:00

苦しむ「4番」とその宿命

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オリックス・吉田正尚

白球つれづれ2019~第14回・出遅れた4番たち~


 今月6日、ロッテの4番打者・井上晴哉が出場選手登録を抹消された。二軍落ちである。開幕から4番に起用されたが、前日まで23打数1安打。打率は「.043」と極度の不振に陥り、指揮官の井口資仁も苦渋の決断を下すしかなかった。

 昨年はプロ5年目で大ブレイク、持ち前の長打力を発揮して、打率.292に24本塁打、99打点と文句なしの働きで、今季は不動の4番と目された。ところが、ふたを開けてみると他球団の研究は進み、各カードで特に内角への厳しい攻めで自慢の打棒が封じられる。結果が出ないから打席での焦りが生まれる。

 何年も4番に座っていれば、首脳陣の信頼は多少の不振では揺るがない。だが、1年しか実績のない井上では、辛抱にも限度がある。皮肉にも昨年のチーム本塁打は78本で12球団ワーストだったが、今季は新加入のB・レアードや中村奨吾、加藤翔平らがアーチを量産。井上は居場所を失った。

 オリックスの吉田正尚も4番の重圧に苦しんだ。開幕前の侍ジャパンでは大暴れして順風満帆の船出かと思われたが、8日現在(以下同じ)、打率.147とバットは湿りっぱなし。“マッチョマン”として人気を博す球団の顔だが、自慢のパワーも目下アーチはゼロ。開幕の日本ハム戦で一、二塁間に内野手を3人配置する「吉田シフト」を敷かれたのが力みを生んだという説もある。こちらは6日には4番の座をJ・メネセスに明け渡している。それまでの成績は25打数2安打で打率.080だった。

 「正尚が4番で責任を背負っているようだった。どうしたら打撃の状態が上向くかを考えた」と監督の西村徳文は打順入れ替えの理由を語っている。

 他には、阪神の大山悠輔も重責に結果が残せないでいる。直近の広島戦では3戦連続安打を放ち上向きながら、それでも打率は.206と及第点とは言い難い。特に前カードの巨人戦では好機に凡退の連続で3連敗。「自分のせいで負けた」とうなだれている。


4番が背負う重責


 4番打者とは、やはり特別なポジションなのか? 今季からDeNAのチーフ打撃コーチに就く田代富雄が4番の重責をこう表現する。

 「やはりチームの顔だし、特別なもの。その働きでチームに勢いも生めば、影響も大きい。打てないときでも落ち込むような表情も出来ないしね」

 自身も大洋(現DeNA)時代には主に4番に座り現役通算278本塁打の長距離砲、指導者としても筒香嘉智(DeNA)や岡本和真(巨人)らの4番を育てた名伯楽だ。近年でこそ、2番に強打者を置いたり、3番最強論もある。だが、それでも4番の特別な重要性は変わらない。投手で言うならエース。そこで負ければチームは沈み、勝てば絶対的な優位を手に入れる。

 かつて、ミスター巨人の長嶋茂雄は夜中にむくっと起き出すと、一心不乱にバットスイングを始めたと言われる。夢にまで打撃のことが出てきてチェックポイントを確認したのだ。現在でも西武の4番・山川穂高は本拠地ナイター終了後も室内練習場に直行すると特打を日課としている。特別な重圧をはねのけるには血のにじむ努力が欠かせない。

 たかが、開幕直後の9試合が終了したばかり。打撃成績もこの時点なら2~3試合、固め打ちすれば急上昇も可能だ。しかし、一方でチームの成績が悪ければ、それも含めて背負い込むのが4番の宿命でもある。

 「何で自分が4番なの? 拷問としか思えない」と、こぼしたのは楽天の島内宏明。3番・浅村栄斗と5番のZ・ウィーラ―に挟まれる「つなぎの4番」と自認していても責任の重さに押し潰されそうだと言う。やはり、スペシャルな打順であることは間違いない。出遅れた4番たちの巻き返しはなるか!? ペナントレースを熱くする大きな要因となる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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