コラム 2019.04.15. 18:00

広島不振の裏に“新井ロス”あり

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広島・新井貴浩=マツダ

白球つれづれ2019~第15回・広島不振の因~


 セ・リーグ3連覇中の広島が予想外の苦戦を続けている。

 14日のDeNA戦に敗れ、このカードも負け越し。開幕以来5カード連続の負け越しは球団ワースト、早くも「V率0%」と不吉なデータまでが取り上げられている。

 オープン戦は8勝4敗4分けで首位。迎えた開幕の巨人初戦では、大瀬良大地が巨人・菅野智之とのエース対決を制して盤石のすべり出しに見えた。ところが2戦目以降から様相が一変する。投手陣の崩壊に、貧打線に、守乱と、とても王者とは思えぬ戦いが続き、借金も膨れ上がっていった。

 4勝11敗。勝率は3割に届かず、首位を行くヤクルトからは6ゲーム差が15日現在の現実だ。チーム打率.212は両リーグワースト。同防御率4.09も阪神に次ぐリーグで5番目。加えてディフェンスの堅さで定評のあったチームがすでに18失策のていたらくでは希望を見出す方が難しい。


いくつかの不振の要因は


 今季を迎えるにあたって、2つの不安材料が指摘されていた。

 ひとつは丸佳浩の抜けた穴。2年連続MVP、不動の3番打者が抜けたうえでライバルの巨人に移籍した。オープン戦からその穴を埋めるために色々な打者をテストしたが結果は出ずじまいで、首脳陣は対戦投手との相性や、調子を見ながら起用していく「見切り発車」を余儀なくされている。すでに現時点で10通り以上の打線の組み換えが行われる猫の目ぶりだ。

 打線の主役不在が脇役たちの焦りを生む悪循環。切り込み隊長の田中広輔が8番に降格したり、昨年は3割をマークして恐怖の下位打線を牽引した会沢翼も目下のところ2割あたりを行ったり来たり。こちらは捕手として投手陣の乱調で打撃どころではないのが現状である。

 もうひとつの懸念材料は、左腕エースのK・ジョンソンの出遅れだ。キャンプ終盤に来て、謎の体調不良で突如二軍調整となった。どうにか開幕2カード目の中日戦に間に合わせたが、本来の調子になく未勝利。昨年も11勝した大黒柱で白星を計算できなくては苦しい。

 投打ともに浮上のきっかけをつかむしかない中で、今季のカープ不調の因を別なところに見るむきもある。それは新井貴浩氏の存在だ。


替えの利かない役割


 昨年限りで現役を引退した新井の役割は多岐にわたっていた。晩年は主に代打起用が多かったが、長年にわたって4番も務めた主砲。鈴木誠也には4番打者としての心得からチーム内の立ち位置、振る舞いまで教え込んだ。さらに、ベンチにいても大声をあげてチームを鼓舞し、時には「いじられ役」としてムードメーカーの役割も果たした。「新井さんのために」を合言葉に、V3の大きな原動力となった。

 確かに、丸の抜けた穴も大きく、ジョンソンの出遅れも痛い。しかし、こうした緊急事態に最も必要なのはチームリーダーの存在だ。残念ながら丸もそのタイプではなかった。菊池涼介もプレーで引っ張るタイプ。強いて上げるなら田中なのだろうが、自らの不振で余裕がない。“新井ロス”は想像以上に大きい。

 近年、広島では前田健太がメジャーにわたり、黒田博樹が現役引退とチームに激震が襲ってきた。しかし、そのたびに孝行息子が表れている。一昨年は薮田和樹が15勝、昨年は大瀬良が同じく15勝をあげて主役に躍り出た。彼らは黒田の教えを生かしながら成長していった。だが、投手陣の中の一角と、チーム全体を牽引するリーダーはまた別物だ。野手で全軍に勇気と影響を与え、相手チームにも一目置かれる。苦境に立ったときこそ、その役割の大きさに気づかされる。

「これが今のチームの現状。何とか浮上のきっかけをつかむよう1試合、1試合やっていくしかない」

 監督の緒方孝市も必死に前を向くが、特効薬は白星しかない。このまま低迷が続くのか? 逆襲を開始するのか? リーダー不在なら全員の結束で光明を見出すことが肝要となって来る。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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