白球つれづれ2019~第18回・伝説の男へ~
史上初の10連休に沸いた今年のゴールデンウィーク。だが、野球選手にとっては逆に過酷な連戦となった。そのGWで最も話題をさらった男と言えば巨人の坂本勇人だろう。
5月1日の中日戦で「令和」1号を記録すれば、6日のDeNA戦で11号、12号の固め打ちでチームの連敗を救うと、セ・リーグ本塁打レースでもトップに躍り出た。そればかりではない。開幕以来の連続試合出塁を「32」として、球団では55年ぶりに長嶋茂雄の記録に並んだ。そして、王貞治の持つ33試合の球団記録にもあと「1」と迫っている。球団記録がかかるのは8日のDeNA戦(新潟)。この拙稿が読者の目に触れるころにはどうなっているのか? 興味は尽きない。
あの、ONとも肩を並べる記録を打ちたてた坂本。これまでの球歴では2016年に首位打者を獲得しているものの、打撃主要3部門の勲章はこれだけ。本塁打や打点には縁遠い中距離打者のイメージが強い。ところが細かくキャリアを調べてみると、すでに巨人どころか球界の年少記録を数々持つ「伝説の男」であることがわかる。
2006年の高校生ドラフト1位で入団すると、プロ2年目には遊撃のレギュラーとして全試合出場はセリーグ初の快挙。同3年目には打率.306を記録、これが高卒選手では川上哲治、千葉茂と並ぶ球団記録だ。さらにプロ4年目となる10年には31ホーマーを放ち、これが王貞治、松井秀喜以来球団3人目のことだから、もうスーパースターの仲間入りと呼んでもいい。
今季はすでに43本の安打を放ち打率.341もリーグトップ。プロ入り通算安打は1754本として高橋由伸(前監督)を抜いて球団6位に。これがまたすごい。現在30歳だから2000本安打ばかりか、3000本だって夢ではない。ちなみに1500安打到達は17年に記録しており、これまた「伝説の安打製造機」と呼ばれた榎本喜八(毎日、現ロッテ)に次ぐNPB史上2番目の若さだった。
最年少2000安打の可能性も
さて、その榎本が2000本安打を達成したのは1968年のこと。31歳7カ月16日でのスピード記録は未だに破られていない。対して坂本は現在30歳5カ月(生年月日は1998年12月14日生まれ)。つまり、あと1年2カ月あまりで246安打以上が、記録更新には必要となる。坂本のレギュラー定着後、昨年までの平均安打数は年155本だから、現実は厳しいが、今季200安打以上の固め打ちが出来れば現実味も帯びてくる。
「通算の記録は実感がないけど、一線級でやってきた方と並んだのはうれしい。今後は怪我をしないことが大事になるので、体に気を付けて継続出来たら」と本人も語るように、若き天才のウィークポイントは故障の多さ。昨年も脇腹痛で一カ月以上の戦列離脱があった。遊撃手は守備範囲も広く二遊間のクロスプレーには危険もはらむ。それを克服して40歳近くまで現役を続けたらどれだけの伝説を重ねていくのだろう?
私生活では「やんちゃ」ぶりで球団から処分も受けたこともあるが、こと、野球になるとどん欲な優等生。3年前には大幅な打撃改造を目指して秋山翔吾(西武)や筒香嘉智(DeNA)らにアドバイスを求めたこともある。守備ではかつて名ショートとして鳴らした宮本慎也(現ヤクルトコーチ)に弟子入りした。
円熟期という言葉は、坂本にはまだ早いのかもしれない。だが、攻守ともに脂の乗り切った全盛期であることは確かだ。4年前から巨人の第19代主将を拝命しているが、一度も優勝の美酒にありつけないのが悔しい。最強の2番打者として今年こそ。坂本が新たな伝説を作り出すたびに「V」の文字も近づいてくるはずだ。
※数字はすべて5月6日終了時点
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)