バブル時代を象徴したトレンディーエースの存在
前田健太(広島)、金子千尋(オリックス)、岸孝之(西武)など、各球団で“エース”呼ばれる投手が今季も好成績を挙げている。“エース”という響きを聞くと、80年台後半にプロ野球を見ていた世代は「トレンディーエース」という称号を思い出す。当時は、浅野ゆう子、浅野温子、石田純一などの人気俳優によるバブル時代の華やかさを象徴した「トレンディードラマ」が大人気。それに呼応するように、特にパ・リーグにおいてイケメンの若きエースが揃って活躍したため、ドラマのジャンル名に掛けてそう呼ばれたのだ。
その中でも特に話題だった3人を勝手にランキング形式で紹介しよう。
高レベルで競いあった阿波野秀幸と西崎幸広
88年には、近鉄がシーズン最終戦のダブルヘッダーに優勝を賭ける「10.19」で緊急リリーフとして連投。勝てば逆転優勝の2戦目に同点弾を打たれ、その涙とともに悲運の投手というイメージが定着した。
そして、2位は西崎幸広(日本ハム)。阿波野と同い年の速球派右腕で、プロ入り直後はあまり注目されてはいなかったが、夏場頃から阿波野を猛追。スカッとするような速球とキレのいいスライダーで、終わってみれば阿波野と同じ15勝(7敗)を挙げ、新人王は逃したが特別表彰された。
阿波野の「しょうゆ顔」に対し、西崎は目鼻立ちがキリッとした「ソース顔」。2人は同期のライバルとしてマスコミからも数多く取り上げられ、パ・リーグの女性ファンが急増したと言われている。
3位には渡辺久信(西武)。「え? 去年まで西武の監督だったあの渡辺監督!?」と思った今どきのファンの人、いたでしょ? だが、渡辺もまごうことなき“トレンディー”。元々、目鼻立ちはキリッとしていたし、当時は今と違って髪の毛はフサフサ! 長身だがガッシリしていて力強く、阿波野や西崎よりもダンディな速球投手として2人よりも一足早く活躍し、人気を得ていた。
その他にも、星野伸之(オリックス他)や工藤公康(西武他)なども含めて称されたトレンディーエースは、数年に渡り一時代を築いたが、90年に全然トレンディーじゃない大物ルーキー・野茂英雄(近鉄他)が大活躍。彼らをその投法よろしく竜巻(トルネード)のように吹き飛ばしてしまった。
代名詞だった阿波野と西崎は数年で勢いを失っていくのだが、そこはプロ。阿波野は巨人、横浜で地味な中継ぎとして、西崎は西武のリリーフエースとして、ともに粘り強く活躍したことは絶対に忘れてはならないと思っている。
■80年代後半話題となったトレンディーエース 勝手にランキング
1位 阿波野秀幸(近鉄) 通算 75勝68敗5セーブ
2位 西崎幸広(日本ハム) 通算 127勝102敗22セーブ
3位 渡辺久信(西武) 通算 125勝110敗27セーブ
文・キビタキビオ(きびた・きびお)