田中広の存在が打線に流れを生む
打線再編のキーマンは、新戦力とは限らない。春季キャンプを目前に控えた1月下旬、田中広輔は、昨年8月に受けた右膝手術からのリハビリに励んでいた。
未知数の段階から佐々岡真司監督は、「去年の悔しい気持ちがあるし、すごく期待している。選手会長として引っ張る気持ちもある。若手を使うという考えもあるかもしれないけど、広輔にも意地がある」と公言していた。小園海斗との競争を前提としながらも、春季キャンプ前から新監督の構想の中には田中広が大きなウエートを占めていたのだろう。開幕延期後の状態の良さに、朝山東洋打撃コーチも「今年はやってくれると思う」と言い切った。田中広が出塁して駆け回る。それが新政権の理想的な得点パターンの一つとなる。
田中広は、昨季打率.193と最後まで復調気配を見せることなく手術に踏み切った。連続フルイニング出場は635試合で止まり、遊撃を高卒新人の小園に譲った。それでも、万全なら要となる守備位置を譲るような器ではない。「寒いときは動きづらい部分もあったけど、不安はなくなっているな…と思う」。春季キャンプ前からコンディションに不安を抱えていた昨季と状態の違いは明らかで、期待も自然と膨らむ。
変化は、プレーだけではない。精神的支柱といえる会沢翼の後を継ぎ、今季から選手会長を担うこととなった。大役が正式に決まると、新監督が掲げる一体感を何度も公の場で口にしてきた。春季キャンプ中の積極的な声出しに加えて、「ピリッとした感じが少ない」とナインに緊張感を求めるなど、役職にふさわしい言動が目立った。チームの方向性を示した沖縄2次キャンプ最後の手締めでのあいさつは、ナインの胸に強く刻まれたことだろう。
「シーズンに入れば、うまくいかないことの方が多いでしょう。そのときにチームのために行動ができる自己犠牲ができるとチームに一体感が出ると思います。一体となって頑張っていきましょう」
田中広の存在が、打線に流れを生む。1番に座れば、菊池涼介との「タナ・キク」コンビが再び形成される。1人に続くクリーンアップは「ピレラ・鈴木誠也、西川龍馬」と、一気に上位までが固まる。
さらなる進化が期待される鈴木誠と西川
新助っ人のピレラは、多様な打順に対応できる万能型である。「タナ・キク」から始まる基本形の打順なら3番での攻撃力が期待される。朝山打撃コーチが「上位でも見てみたい」と言うように、オープン戦では2番にも座り、開幕延期後の練習試合では1番での出場機会を増やしている。「(アメリカ時代の)去年は3、4番を打つことが多かったけど、1番だろうと2番だろうと全く関係ない。状況に応じて自分の力を出すだけだよ」。ピレラの存在が打順にバリエーションをもたらす。
そして、中軸には覚醒の年となるかもしれない2人がいる。鈴木誠と西川。4番に固定される鈴木誠は、昨季首位打者を獲得し、侍ジャパンの4番最有力にまで成長した。それでも、朝山打撃コーチが「去年を見ていると、まだできるな…と思っていた」と言うように、伸びしろは底を知れない。東京五輪の延期によって、今季の一つのモチベーションが消えたが、開幕延期期間を「いろいろ試せる」と有効活用。想定外の調整の中に、新たな成長の扉が隠れているかもしれない。
そして、3、5番の両睨みで鈴木誠の前後を担う西川は、「集中力」と何度口にするかが今季の出来を示すかもしれない。昨季のレギュラーシーズン終了直後のベンチ裏で「最後だけ集中してもだめ」と話して後悔した。打率3割には2安打届かず。自由奔放な性格は、ときに集中力の欠如へとつながり、無駄にした打席があった。「集中力だけです」。課題が明確となれば、天性の打撃技術が本格的に花開くのも時間の問題かもしれない。
逆襲を誓う男を先頭に、新助っ人、脂が乗ろうとする中軸もいる。多彩な注目点は、今季も打線がリーグ屈指であることの証である。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)