後半戦を熱くするキーマンたち~第3回:ジェリー・サンズ(阪神)
原巨人の独走がどうにも止まらないセ・リーグのペナント戦線。
追撃の一番手と目された阪神が15日からの直接対決で粉砕される。同日には菅野智之投手に開幕戦から11連勝を許して早々とマジック点灯。翌16日も連敗して東京ドームでは8連敗。この試合、点差こそ6対7の惜敗に映るが、相手は坂本勇人、岡本和真両選手をコンディション不良で欠き、いわば「飛車角落ち」だった。
おまけに元木大介ヘッドコーチが盲腸の入院で急遽、阿部慎之助二軍監督をヘッド代行で呼び寄せたら田中俊太や立岡宗一郎選手ら“阿部チルドレン”が暴れまわるのだから手が付けられない。17日の試合に勝利して一矢報いたものの、完全な一強多弱状態だ。
さらに今後の戦いの興味をそいでいるのがコロナ禍の日程編成である。本来であればシーズン3位までに食い込めばクライマックスシリーズが行われ、敗者復活のチャンスがあった。だが、過密日程となる今季のセ・リーグはこれがゼロ。パ・リーグは2位になれば下剋上もあるが、セの場合は甲子園、神宮、広島、横浜と屋外球場が多いため、雨天中止を考えると日程的にも難しかった。
というわけで、タイトルにある「後半戦を熱くする」には少々、無理があるが今回は「虎党限定?」の注目選手を取り上げよう。
「巨人が首位独走? それがどうした。タイガースにはサンズがおる。巨人にこれほどの助っ人がおるんか?」。ファンのそんな声が聞こえてきそうな優良外国人がジェリー・サンズ選手である。
勝ちとった信頼
17日現在(以下同じ)の打率.295はセ・リーグ全助っ人の中でトップ。18本塁打、54打点と、見事な成績を残している。加えて得点圏打率(.421)は12球団一、長打率(.573)もリーグの上位に名を連ねる。
中身も濃い。日本デビューとなった6月のDeNA戦で9回に山﨑康晃投手から逆転の3ラン。7月にはヤクルト戦で僚友、ジャスティン・ボーア選手とアベックの満塁本塁打を記録すると、8月末から9月にかけて3試合連続本塁打。9月10日のDeNA戦では再び乱打戦を制する決勝の逆転2ランを放っている。目下、本塁打で大山悠輔選手に1本差のリードを許しているが、十分に「チーム三冠」を狙える位置にいる。
今季の開幕前は例年以上の大物外国人来日が話題を呼んだ。メジャー282本塁打、正真正銘の超大物、アダム・ジョーンズ選手(オリックス)に、同じくメジャー54勝のマット・ムーア投手(ソフトバンク)や昨季ナショナルズで世界一に輝いたジェラルド・パーラ(巨人)、さらに阪神に入団したボーアも「バース二世」として大きな期待を集めた。
そんな中でサンズは開幕を二軍で迎えた。オープン戦で結果を残せなかったこともある。さらにチームは今季、5人の外国人選手を一気に獲得、昨年から在籍するオネルキ・ガルシア投手、ジェフリー・マルテを加えると7選手を数えている。コロナ禍の新ルールで最大5人の外国人選手の一軍登録が可能になったが、チームの選択は投手3、野手2でスタート。ボーアとマルテの後塵を拝する形でサンズの日本生活は始まった。
真面目で実直な優良助っ人
昨年、韓国リーグで打点王という以外、さしたる球歴はない。2008年のドジャースを振り出しにレイズ、インディアンス、ホワイトソックスなどを渡り歩くが、大半は3Aとを行ったり来たりの苦労人。その分、踏まれても耐えてのし上がる強さは負けていない。チーム関係者も「真面目で実直」と口を揃える人柄に、短期間で日本野球にアジャストできたのは人一倍の研究熱心さがあったからだ。
「中身がある。自分の打撃とピッチャーとの駆け引きとか技術。頭もしっかり使って、そういうところが今の成績につながっている」と、監督の矢野燿大も今では全幅の信頼を寄せる。好調なバットと共に人気もうなぎ上り。グッズ売り上げでもサンズ関連商品が上位を占めるという。もはや立派なチームの顔だ。
開幕前に藤浪晋太郎投手らのコロナ感染。開幕直後は近本光司選手の不振に主砲候補・マルテの故障離脱、夏場には藤川球児投手の今季限りの引退発表など、チームは完全に機能したとは言えない。それでもまだAクラスにいるのはこの優良助っ人が出現したからだろう。
熱烈虎党で鳴るDスポーツでも「優勝」の見出しは立てられない現状。それならしばしの間はサンズの打棒に酔いしれるしかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)