コラム 2021.02.09. 07:09

ノーヒットノーラン達成も…通算20勝未満に終わった投手の“数奇な運命”

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プロ初登板の巨人戦でノーヒッターを成し遂げた近藤真一 (C) Kyodo News

通算16勝の「パーフェクト男」


 通算350勝を誇る米田哲也(阪急→阪神→近鉄)や、320勝の小山正明(阪神→東京→ロッテ→大洋)、284勝の山田久志(阪急)、276勝の稲尾和久(西鉄)のように、球史にその名を残す伝説の投手であっても、なかなかチャンスが巡って来ないのがノーヒットノーランという大記録。文字通り相手に1点も与えず、かつ1本の安打も許さずに1試合を投げ抜いた時に達成される偉業である。


 しかし、長きにわたり輝きを放った名投手が達成できずにキャリアを終えていった一方、その1試合でまばゆい輝きを放ち、数少ないチャンスをモノにした男もいる。

 たとえば、国鉄の森滝義巳がその一人。この選手はノーヒットノーランどころか、1人の走者も許さない完全試合を達成した数少ない投手でありながら、通算16勝でそのキャリアを終えた。


 入団2年目の1961年6月20日・中日戦。9日ぶりの先発となった森滝は初回、河野旭輝と法元英明の1・2番を連続三振に打ち取るが、二死から井上登の鋭い打球が三塁線を襲う。だが、徳武定之がこれに横っ飛びで追いつき、一塁アウトに。徳武は5回にも江藤慎一の三塁線への難しいゴロを超美技でさばく。これでリズムに乗った森滝は、ストライク先行の小気味良い投球で、6回まで一人の走者も許さない。

 最大のピンチは7回二死。井上に対して初球から3つ続けてボール。「打たれても良い」と開き直った森滝は、2球続けて真ん中に投げてフルカウントにしたが、ファウル2本で粘られた後の8球目が内角に大きく外れ、井上の肩口目がけて食い込んでいった。

 普通であれば死球になるところだが、幸運にも避けたバットのグリップに当たりこれがファウルに。次の球で遊ゴロに打ち取ると、迎えた9回二死、代打・酒井敏明を遊ゴロに仕留めた瞬間、史上7人目の完全試合が達成された。


 この快挙で自信をつけた森滝は、同年に自己最多の10勝をマーク。一躍、球界を代表する投手に飛躍を遂げるかと思われたが、翌年は0勝7敗と急失速。サンケイ時代も含めて通算16勝46敗に終わり、28歳の若さで引退。

 その後、1966年に完全試合を達成した佐々木吉郎(大洋)も通算23勝に終わるなど、当時は「完全試合男は大成できない」というジンクスまで囁かれた。


広島の「ノーノー男」は1シーズンだけ輝いた


 ノーヒットノーランを達成した1シーズン限定で輝きを放ったのが藤本和宏だ。

 左膝を負傷して西鉄を自由契約になった藤本は、テストを経て広島への入団を勝ち取ると、1971年6月18日の大洋戦で1失点完投のプロ初勝利。「これで男が立ちました」と喜びに打ち震えた。さらに同29日の中日戦でプロ初完封も達成するなど、7月までに4勝を挙げる大活躍を見せる。

 勢いに乗って迎えた8月19日の相手は「相性の良い」中日。自信を持って投げ進め、6回まで毎回の8奪三振。1本も安打を許さない快投であっという間に最終回へ。

 6-0とリードした9回、一死から四球を許したが、代打・新宅洋志を左邪飛に仕留めてあと一人…と思いきや、アウトカウントを間違えた一塁走者が飛び出すというチョンボ。これが併殺となってノーヒットノーラン達成。直後の第一声は「やってやった!」だった。

 同年、藤本は10勝6敗、防御率1.71の好成績で最優秀防御率のタイトルを獲得。ところが、翌年以降は1勝もできず、通算10勝10敗で現役を終えている。


衝撃の「デビュー戦ノーヒッター」


 高卒1年目のデビュー戦で、それも巨人相手にノーヒットノーランの快挙を達成したのが、中日の左腕・近藤真一である。

 1987年8月9日の巨人戦。星野仙一監督は当時の“ドラ1左腕”をプロ初登板初先発させた。誰もがあっと驚く大抜擢。なにせ近藤は入団以来、体づくりに専念しており、ウエスタンで実戦登板ができるようになったのが6月のこと。起用を決めた星野監督ですら、「近藤は一軍で使うつもりはない」と、1年目からのデビューに関しては慎重な姿勢を見せていたのだ。

 ところが、オールスター明け後、近藤の体が一軍で通用するレベルにまで仕上がると、「一軍のシビアな戦いの中で、緊張感とともに育てたい」という想いも。そんな矢先、「9日の先発がいません」と投手コーチが報告してきた。渡りに船とばかりに「下にいるじゃないか」と近藤の先発を決めたという。


 これには当然、巨人側もビックリ。王貞治監督もまったく予想しておらず、ラインナップには1番から駒田徳広・岡崎郁・篠塚利夫と左打者がズラリ。

 とはいえ、プロデビュー戦が巨人戦というのはプレッシャーのかかりそうなもの。近藤は「思い切り投げれば、打たれても悔いはない」と自らに言い聞かせてマウンドに向かうと、初回を三者凡退に切って取る好発進。すると、そこからなんと9回二死まで巨人打線を無安打に。

 迎えた最後の打者・篠塚を見逃し三振に打ち取った瞬間、マウンド上で歓喜のガッツポーズ。「記録よりも、自分の投球ができたことのほうがうれしい」。なお、高卒1年目の投手のノーヒットノーランは史上初の快挙だった。

 さらに近藤は、8月23日の阪神戦で1安打完封劇を演じるなど、1年目から4勝を挙げる活躍。翌年もオールスター前までに7勝と若い力を爆発させたが、その後は肩や肘の故障に苦しみ、実働6年・通算12勝17敗で引退した。


“万馬券”のような大快挙も…


 最後に番外編も。2000年6月20日の西武戦で「20世紀最後のノーヒットノーラン」を達成した近鉄の助っ人左腕ナルシソ・エルビラは、開幕以来出れば打たれるの繰り返し。防御率が8.10だっただけでなく、西武には過去2度の対戦でいずれも2回3失点KOとカモにされていた。
 
 だが、この日のエルビラはメキシコから来日した家族に雄姿を見せようと張り切り、3四球を許しただけの無安打・9奪三振の快投でシーズン2勝目。誰も予想のつかない展開、競馬で言えば“100万馬券”クラスの大快挙だった。

 近鉄在籍2年間で7勝。たった1度の快投で日本球界に燦然と名を残した幸運とは裏腹に、昨年1月、母国で高速道路を走行中、ワゴン車に乗った武装集団に射殺されるという、あまりにも悲劇的な人生の終焉だった。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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