4月連載:予測不能な開幕~第3回・猛虎襲来
今月11日で各球団は対戦相手とひと当たりしたが、その時点で11勝4敗。その後も白星を積み上げて14日時点(以下同じ)で12勝4敗の貯金「8」は、矢野輝大監督就任以来最多となる。コロナ禍にあって、甲子園も満員とはいかず、「六甲おろし」の大合唱も出来ないが虎党にはご機嫌な毎日だろう。
好スタートの要因はいくつも挙げられるが、まずは盤石な投手陣が心強い。
セ・リーグの投手成績上位5傑の中に、ジョー・ガンケル、西勇輝、青柳晃洋の名がずらり。これに開幕投手を任された藤浪晋太郎を加えると4人で8勝1敗の圧倒的な数字だ。中でもガンケルはすでに3勝をマーク。昨年は開幕ローテーション入りを果たしたが結果が出せずに中継ぎ転向、わずか2勝(4敗)に終わった助っ人が、去年1年分以上の白星を稼ぎ出しているのだから、首脳陣にとっても嬉しい誤算と言える。
各球団がやりくりに四苦八苦している先発5、6番手に昨季11勝の秋山拓巳がいて、ルーキーの伊藤将司まで7日の巨人戦で初先発初勝利を挙げている。パ・リーグで楽天が首位に躍り出たように、やはり投手陣の安定したチームは抜け出る確率が高い。
新人カルテットが躍動
次は怪物・佐藤輝明選手のもたらす様々な効果だ。
開幕カードのヤクルト戦でいきなりバックスクリーンを直撃する特大のプロ1号。続く広島戦でも2号と快ダッシュを見せたが、その後はライバル球団の徹底マークの前に三振の山を築いていった。それでも、自らの打撃を貫いて再浮上するあたりが怪物たる所以だ。9日のDeNA戦では横浜スタジアムの右中間場外へ140メートル弾を放つと、14日には待望の甲子園初アーチ。4月中旬での4本塁打はシーズン30発以上を十分に予感させる。
ドラフト1位男に引きずられるように、今年は新人の活躍が目覚ましい。前述の伊藤将司がドラフト2位の即戦力左腕なら、ドラフト6位の中野拓夢選手は木浪聖也選手から遊撃のレギュラーの座を奪いそうな活躍。ドラフト8位の石井大智投手も貴重な中継ぎとして一軍入り、この“新人カルテット”がチームに新たな風を呼び込んでいる。
さらに「テルのパワーに刺激を受けている」と語るジェリー・サンズも絶好調で、早くも5本のアーチを量産。佐藤輝の6番定着で脇役も締まる。糸原健斗選手や梅野隆太郎選手の働きで、上・下位打線のどこからでも得点できるのが今季の躍進を支えている。先制点をあげた試合は目下12連勝。活発な打棒を強力投手陣が支えているから好循環が生まれている。
カギは伝統の一戦か?1
矢野監督が就任して3年目。3位、2位と順位を上げて目指すは優勝しかない。過去2年の反省から、今季は久慈照嘉内野守備コーチにバント担当、筒井壮外野守備走塁コーチに分析担当を兼務させている。勝負所でのバントの大切さ、相手チームへのデータ分析の必要性を色濃く出した担務分担である。
春季キャンプでは元巨人、中日のヘッドコーチを務めた川相昌弘氏を臨時コーチに招いて小技の習得を徹底した。そんな従来の淡泊な虎から緻密さを加えた矢野采配に「川相効果」を指摘する評論家もいる。
昨年、優勝した巨人とは7.5ゲーム差をつけられた。中でも致命傷だったのが8勝16敗の直接対決の結果だった。これが逆の数字なら逆転。仮に五分の成績なら4ゲーム差は縮められた計算が成り立つ。いきなりの開幕カードで3連敗を喫したことが最後まで影響した。
今季の初対決は2勝1敗と勝ち越しているだけに、20日からの直接対決第2ラウンドもライバルを撃破するようなら進撃はまだまだ続くだろう。長丁場の今季を占う意味でも注目される伝統の一戦となりそうだ。
目下のところ、やること、成すことがすべてうまくいっている。もっとも、このままシーズンが終わるわけもない。次なる戦術は大型連敗を喫しないこと。下位チームを徹底的に叩いて「お得意様」を作るのが優勝チームの鉄則だ。
過去には15試合消化時点で11勝以上の開幕ダッシュを5度記録している阪神だが、過去の4度はいずれも巨人に逆転優勝を許している。ここ一番に期待すると裏切られるのがこのチームの「負の歴史」だが、さて今季はどうか。
「オフの祝勝会にはぜひ呼んでください」と臨時コーチ終了の際に川相氏はあいさつした。そんな夢を感じさせる春。16年ぶりの美酒を虎党は熱望している。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)