「ようやくリズムが出てきた」
インパクトから左手一本でフォロースルーを決めた。
中日のダヤン・ビシエドが6月5日のオリックス戦で今季初の1試合2発。交流戦首位を走るチームを牽引している。
昨季終盤に左肩脱臼のケガを負った主砲が、ついにナチュラルなスイングを取り戻した。
全快の主砲は、全開を確信する。
「シーズン始めは自分のスイングをできなかったんだ。ようやくリズムが出てきた。右翼でも左翼でも、どこでも打てるようになった」
「右手を離せなかった」春先を乗り越えて…
“手放し”では打てない理由があった。
脱臼した左肩の不安により、2月の春季沖縄キャンプと開幕直後は「生まれて初めての両手を使ったスイング」を強いられた。
「右手を離せなかったんだ」
患部への負担を考え、右手でバットを握り続けたままフォロースルー。
左手一本で肩が抜けそうな感覚になるのを防いだ。
これが結果として、思わぬ故障を招く。
右脇腹痛──。4月上旬の不振と出場選手登録抹消は、昨季の左肩脱臼から始まっていたのだ。
交流戦初優勝に向かって…
7号2ランも、8号ソロも、最後は左手一本で振り切った。
初回はオリックス先発・田嶋大樹の130キロ・カットボールを、そして8回は比嘉幹貴のスライダーを、ともに左翼席へ運んだ。
もうアイシングの必要もなく、「気になることもない」と断言する。1試合2発は昨年8月19日のヤクルト戦(神宮)以来、10カ月ぶりだった。
4日から6日のオリックス3連戦(バンテリン)では3戦連続安打。それだけではない。あと2カードを残した6月7日時点で、ここまでの交流戦全12試合でヒットを放った。
43打数19安打、打率.442は交流戦トップ。チームも残り6試合を残して7勝3敗2分けで、DeNAと並び首位タイにつけている。
チーム状態をよくしたままで、同じキューバ出身のライデル・マルティネスとジャリエル・ロドリゲスの両投手を迎えたい。
両右腕は東京五輪のアメリカ大陸予選で敗退。大舞台への出場を逃した。主砲にとっても重大な関心事項で、心配ごと。離日後も連絡をとっていたといい、「彼らは精いっぱいやった。2人には、違う大会があったら勝ってもらいたい。普通に帰ってくればいい」と話した。
ビシエドがアーチを描けば8戦8勝という不敗神話も継続中。チームも借金返済間近となっている。6月反攻真っただ中の中日。交流戦優勝となれば、球団初。いまだ交流戦MVPだっていない。
投手陣も柳裕也投手は2戦2勝で防御率0.00、小笠原慎之介投手は2試合投げて防御率0.71。先発陣を筆頭にリリーバーも奮闘していて、交流戦のチーム防御率2.94はリーグトップ。2点台は12球団で唯一となっている。
投手の頑張りは特筆事項。打線爆発が期待される。その中心に座る主砲が打った分だけ、快挙の足音は大きくなる。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)