まるで別人のような公式戦の投球 四球連発の自滅投球が繰り返される
4月23日の西武戦でノックアウトされて以来、約2ヵ月ぶりとなる一軍の先発マウンドに立ったゴールデンルーキー。ファームでの鍛錬の結果を見せつけるはずだった6月19日、広島相手に投げて4回3安打5四球3失点、またも負け投手に。
これで開幕から6試合に登板して、0勝4敗、防御率は5.68。ローテーションの一角を任せるにはあまりに苦しい成績である。オープン戦では、4試合に登板して2勝0敗で、防御率は圧巻の1.13だったのだからプロの世界はやはり厳しい。相手打者が本気モードの公式戦では、そう簡単に勝たせてくれない。
勝てない理由は、あらゆるところで散々書かれている“制球難”に尽きるだろう。怪物ぶりを発揮したオープン戦では、16イニングを投げて4四死球と、十分なコントロールだったのに、公式戦になったら別人のように四球を連発。25回1/3で30四死球(内1が死球)ではさすがに手に追えない……。これだけムダな走者を背負っていることを思えば、防御率が5点台で済んでいることが、ある意味で救いに思えてくるほどだ。
カウントを悪くするとまるで腕が振れない悪循環に…
それにしても、これだけファームとの成績に開きがある投手も珍しい。イースタンリーグでは6試合に登板して1勝0敗、防御率0.89。20回1/3で四死球8(内2が死球)と、ほぼ完璧な数字である。
一軍での登板を見ていると、対戦する打者は当然ボール球には手を出してくれないから、カウントをどんどん悪くする。すると、明らかに置きにいくようなフォームで弱々しいボールを、“ボールゾーンに投げ込む”松井の姿がある。故障でもしているの? と疑いたくなるほど、腕がまったく振れていない。
それこそ、高校2年の夏の甲子園大会で1試合22奪三振の大会記録を打ちたてた時や、今年のオープン戦では、もぎれんばかりに腕を思い切り振っていたではないか。
松井は、元来、左打者のアウトコースに投げる以外は、細やかな制球力がない投手である。その短所を補うのは、彼の最大の武器でもある、「行き先はボールに聞いてくれ」と言わんばかりのキレのいいボールだ。それもすべては、腕を思い切り振るからこそ投げられるもの。打者もボールのキレや勢いで思わず手が出る、というパターンで自分自身の投球ペースを掴んでいたはずなのである。それをすっかり忘れてしまった。
「四球を出したくない」「痛打を食らいたくない」「点を取られたくない」そして、「早くプロで勝ちたい」という思いが、いい部分を消してしまっては何の意味もない。
そして、プロで生き残るためには右打者のインコースに強いボールを投げ込む必要もある。高校時代、「右打者のインコースに投げ込まない投手(投げこめない?)」という印象が強かったが、プロではさすがに捕手がインコースを要求してくる。もちろん松井本人もそこに投げ込む意識はあるのだが、どうしてもボール1個分中に入るきらいがある。当ててはいけない……という恐怖からなのか、結局、真ん中よりに甘く入るボールを痛打されることになる。これもまた、ボールを置きにいくということであって、行き着くところ、すべては思い切って腕を振れていないことがまねくことなのである。
「四球を何個出しても抑えればいいだろう!」くらいの開き直りを持って、強気に投げ込む。まずはその精神的な部分でのステップアップがない限り、白星は遠いように思えてくる。
27日にリーグ戦が再開されてからの松井は、ファンにどんな投球を見せてくれるのだろうか。ゴールデンルーキーの真価が問われる。
文=岩川悟(いわかわ・さとる)