白球つれづれ2022~第5回・選手の感染拡大で各球団に与える影響
プロ野球12球団は“戒厳令下”でキャンプをスタートする。
言わずと知れたオミクロン株の脅威にさらされた中での本格始動だから、選手はもちろん、首脳陣やチーム関係者も戦々恐々の船出となる。
1月30日現在で年明けからの12球団のコロナ陽性者は104人。選手以外に首脳陣らもカウントされているが、チームスタッフなどは含まれていない。これに濃厚接触者として練習の自粛を強いられた者も入れるとさらに数は膨らむ。キャンプイン時点で、これだけの戦列離脱者を抱えるのは前代未聞の出来事である。
選手のオフシーズンに「第6波」が到来
球界に衝撃が走ったのは1月中旬のことだった。
17日、佐賀・嬉野で合同自主トレを行っていた「柳田組」で集団感染が発覚。球界を代表する強打者・柳田悠岐選手(ソフトバンク)のもとには清宮幸太郎(日本ハム)や安田尚憲選手(ロッテ)らの若手有望株が集結していたから大きな注目を集める。同日には同じソフトバンク・松田宣浩選手らが自主トレを行う熊本でもDeNAの宮﨑敏郎選手らも罹患。このあたりから、連日のように感染者が急増していった。
コロナの中でも昨年まで猛威を振るったデルタ株に対して第6波の主流であるオミクロン株は、感染力は強いものの、重症度のリスクは低いとされている。加えて、度重なる蔓延防止法などにより、国民全体の危機意識が薄れてきた。そこに、プロ球界では12月と1月は選手が球団の管轄下から外れるため、チェック機能が希薄になる。陽性者急増はそんな落とし穴にはまった結果とも言えるだろう。
異常で、異様なキャンプインの風景はあちこちに見られる。
日本一のヤクルトでは高津臣吾監督が知人にコロナ陽性者が出たため、自発的に隔離生活に入り、沖縄キャンプ初日には監督不在となった。また、移動直前の30日にコロナ陽性が発覚した西武・平良海馬投手と濃厚接触の疑いのある浜屋将太、水上由伸投手らは急遽、本体と離れて所沢で調整が決まった。西武では今月下旬に発症した山川穂高、外崎修汰ら主力野手も同様な措置が取られて「所沢組」は11人に上る。最下位からの脱出を誓う辻発彦監督にとって、昨年はけが人の続出、今年はコロナ禍と頭を抱える事態に追い込まれている。
野手よりも影響が大きい投手の調整遅れ
100人を超すコロナ感染者だが、チームに与える影響は様々だ。
陽性と判定された選手でも10日間の隔離期間を経て、キャンプに間に合う選手もいる。濃厚接触者も同様。確かにトレーニングの中断期間は体力面で痛いがまだ取り返しの利く範疇と言えるだろう。
だが、今月末に発症した選手は、当然のことながら調整に大幅な狂いが生じて来る。特に投手は野手に比べて繊細な調整が求められるだけに憂慮される。
一例をあげてみよう。昨年7月8日にコロナで登録抹消されたヤクルトの小川泰弘投手が復帰したのは8月31日の巨人戦だった。もちろんコロナがすべてだったとは言えないが、2カ月近くを要している。
一方で野手の場合は広島の菊池涼介選手や鈴木誠也選手らが5月に戦列を離れたが二人とも2週間余りで戻っている。こうしたダメージを考慮すると、キャンプ直近でコロナ禍に倒れた主力選手、とりわけローテーション入り確実な投手や替えの利かない抑え投手を抱えるチームの被害が心配される。
現時点で最も深刻な状況なのは日本ハムである。30日にはエースの上沢直之、伊藤大海両投手の感染が発表された。まさに投の両輪の離脱は痛い。
かつてのキャンプでは主力投手の調整はキャンプイン時点ではキャッチボール程度も珍しくなかった。だが、近年は2月1日からブルペンで本格投球をすることが増えている。
開幕候補のエース級は3月25日の開幕から逆算すると、フリー打撃、紅白戦の登板を経て、オープン戦で3~4試合をテスト。つまり、2月下旬には最低限の仕上げが必要となる。コロナによってキャンプの調整が2~3週間遅れることは、積み木細工を一度崩して、再び作り直すほどの労力が求められるのだ。
こうした、直近でコロナが判明した、替えの利かない主力投手を見ると、日ハム以外では前述の西武・平良、ソフトバンクにFA移籍したばかりの又吉克樹。セリーグでは阪神の新守護神候補として期待される岩崎優らの出遅れが気がかりだ。
キャンプ地では、各球団共に感染防止策に力を注いでいる。
楽天ではワクチン接種証明書や陰性証明が来場時に必要。新庄剛志新監督誕生で人気を集める日本ハムでは公式チケットサイトでの事前予約制、どの球団も来場時の検温や選手とファンとの導線を別にするなど、オミクロンの拡大防止に腐心する。
多くのチームがキャンプを行う沖縄では、オミクロンのピークアウトの情報もある。これ以上、混乱が広がらずに開幕をベストメンバーで迎えられることを祈るばかりである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)