白球つれづれ2022~第9回・継投“ノーノー”を達成したヤクルト投手陣の強さ
野球は「点取りゲーム」である。だが、一方で得点を与えなければ負けることもない。
2月26日、オープン戦が開幕。昨年度の日本一・ヤクルトが珍記録で快発進した。楽天相手に何と7投手を繰り出して、ノーヒットノーランを演じたのだ。
先発の梅野雄吾が3回を無安打で抑えると、二番手の石山泰稚、今野龍太、清水昇、坂本光士郎、大下佑馬とつないで、最後は杉山晃基投手が無難に締めて“ノーノー”が完成した。許した走者は四球による2人だけ。ベンチが盛り上がったのは言うまでもない。
オープン戦の無安打無得点試合は17年にソフトバンクが広島戦で達成して以来、5年ぶり10度目のこと。ヤクルトでは85年以来の出来事だが、7投手による記録は史上初の最多人数である。
7人の顔ぶれを見ると、いずれも中継ぎ投手で、この日は先発要員を外した「ブルペンデー」だった。ここにこそ、高津ヤクルトの強さの一端を垣間見ることが出来る。
昨年のペナントレースでは73勝52敗18分け。2位の阪神が77勝を上げながら(56敗10分け)勝率の差で5厘上回って、2年連続最下位から見事に下剋上Vを果たした。
18を数える引分けの多くは中継ぎ、抑えのブルペン陣が粘り勝ったもの。そんな「縁の下の力持ち」が、今年もいきなり結果を出したのだから首脳陣は確かな手ごたえをつかんだことだろう。
“高津マジック”を可能にする中継ぎ陣
高津臣吾監督が就任した2年前から始まった投手陣の大改革。
初年度の20年はチーム防御率4.61でリーグワーストに終わったが、2年目の昨年は3.48(同3位)と飛躍的に向上している。先発陣では奥川恭伸や高橋奎二投手ら若手が急成長したものの、勝ち頭はその奥川と小川泰弘投手の9勝止まり。2ケタ勝利のエースがいない優勝チームは極めて珍しい。そこでクローズアップされるのが中継ぎ投手の頑張りとやりくり上手だ。
昨季、5ホールド以上をあげた投手を調べると9人を数える。前述のノーヒットノーラン達成時の杉山を除く6投手に星知弥、近藤弘樹、そしてシーズン途中までは中継ぎで起用されていたスコット・マクガフである。
これが、いかに多人数なのか? 同様に5ホールド以上をあげた投手をセの球団別に見ると阪神6、巨人7、広島7、中日6、DeNA4となる。
投手力ナンバーワンの中日では又吉克樹(今季からソフトバンクに移籍)祖父江大輔、福敬登3投手の最強中継ぎ陣に、守護神、ライデル・マルティネスを加えた“勝利の方程式”が確立されていた。逆に最下位に沈んだDeNAなどは勝ち星が少ない分、投手にホールドがつきにくい。チーム事情によって違いはあるが、ヤクルトの場合は2年連続最優秀中継ぎ賞の清水の50ホールド以外は、まんべんなく多くの投手を体調面や出来を考慮しながら起用して、選手たちが結果を出していることがわかる。
「ともかく、チャレンジャー精神で逃げずに打者に向かっていくこと。四球を減らし、三振数を伸ばす事が大事」と伊藤智仁投手コーチが指導理念を語る。その結果、一昨年は共に5位だったチームの与四球、奪三振はリーグトップまで劇的に改善されている。
さらに、今季から延長12回制が復活する。コロナ禍の特別ルールで一昨年は延長10回、昨年は9回打ち切り(日本シリーズは除く)となっていたが、より長くなれば、投手陣の総合力が問われることになる。
現状を見れば、若きエース候補の奥川に2ケタ勝利の期待は持てても、先発陣全体が盤石とは言えない。抑えも昨年はシーズン途中で不振の石山からマクガフに配置転換して、凌ぐなど不安要素はある。今季もまた、指揮官は先発から中継ぎ、中継ぎから抑えなど臨機応変な用兵が予想される。逆な見方をすれば、豊富な中継ぎ陣にタレントが揃っているから“高津マジック”も可能となるわけだ。
今キャンプでも、古田敦也臨時コーチが熱血指導に当たった2年目・内山壮真捕手が急成長中だ。主将の山田哲人選手は「脚のスペシャリスト」並木秀尊選手らに自ら走塁を指導。ファミリー集団らしい結束の強さを見せている。
連覇は簡単に成し遂げることは出来ない。しかし、今のヤクルトには激しいチーム内競争がある。たかが、オープン戦。それでも全員が役割を全うした、中継ぎ陣によるノーヒットノーランにこそ、「負けないチーム」の頼もしさが感じられる。ツバメ軍団は着実に変貌を遂げている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)