昨夏覇者が春の王の進撃を止める
春のセンバツを圧倒的な強さで制した大阪桐蔭。
新チームになってからは公式戦で負け知らず。“史上最強”との呼び声高い絶対王者の連勝が5月30日にストップした。
王者の進撃を止めたのが、昨夏の甲子園覇者・智弁和歌山だ。
春季近畿地区大会の決勝戦で大阪桐蔭を3-2で下し、16年ぶり3度目の優勝を達成。相手の公式戦連勝を「29」でストップした。
勝利の立役者となったのが、4番手で登板して4イニングを無失点で抑えた武元一輝である。
▼ 武元一輝(智弁和歌山)
・投手
・187センチ/88キロ
・右投左打
<主な球種と球速帯>
ストレート:140~148キロ
カーブ:114~120キロ
スライダー:125~128キロ
フォーク:128~132キロ
<クイックモーションでの投球タイム>
1.26秒
昨夏の大舞台で148キロをマーク
武元が注目を集めるキッカケとなったのは、チームが優勝を果たした昨年夏の甲子園・準々決勝の対石見智翠館戦だった。
9点をリードした9回裏からマウンドに上がると、死球と二塁打で1点を失ったものの、3つのアウトを全て空振り三振で奪取。ストレートの最速は148キロをマークした。
ちなみに、148キロという球速は、昨年夏の甲子園で登板した全投手の中で4番目に速い数字であり、当時の2年生ではもちろんトップである。
しかし、これだけのポテンシャルを持ちながら、武元はその後の新チームで「背番号1」を背負っていない。
同学年に塩路柊季という力のある投手がいることもあるが、投手としてのスケールとスピードはありながらも、安定感に欠けるという点がその理由の一つではないだろうか。
実際、昨年秋の県大会では、準決勝の和歌山東戦で3回途中3失点と序盤に崩れてチームも敗戦。センバツ出場を逃している。一発勝負のトーナメントが多い高校野球では、やはりしっかり試合を作れる投手が重宝されるということだろう。
「打」でもスケールの大きさを示す
そんな“未完の大器”といえる武元だが、春以降は大幅に安定感を増していることは確かだ。
残念ながら、大阪桐蔭を破った近畿大会は現地でそのピッチングを見ることができなかったが、成長を感じさせたのが5月15日に行われた宮崎県での招待試合・対宮崎商戦である。
宮崎商は、昨年夏の甲子園を部員の新型コロナウイルス感染によって辞退。智弁和歌山との試合が不戦勝となっていた。
そんな幻のカードの再戦とあって、多くのマスコミとスカウト陣が集結。その中で武元は見事なピッチングを見せる。
初回は安打と犠打、3回には三塁打でそれぞれピンチを背負うものの、いずれも後続をしっかり打ちとって無失点で切り抜けると、4回以降は全く危なげない投球を披露。
結局、終わってみれば被安打3で四死球は0、7奪三振を記録しながらわずか99球で完封勝利をマークしたのだ。
ストレートの最速は自己最速には及ばずも147キロを記録。終盤も全く球威が落ちることなく、アベレージの速さも申し分なかった。
実は前日の小林西戦で4回を投げており、その疲労が残っていたことを考えると、まだまだスピードアップする可能性は高いだろう。
課題だった変化球も緩急を使えるようになり、横に鋭く滑るスライダーとカットボールも威力を発揮していた。
そして、武元の魅力はピッチングだけではない。6回の第3打席ではライトスタンドに飛び込む本塁打を放ち、バッティングでも非凡なところを見せたのだ。
少しアッパー気味のスイングから高々と打ち上げるスタイルで、高めの速いボールには課題が残りそうだが、ヘッドスピードは抜群。その長打力も高校生ではトップクラスである。
この日視察したスカウト陣からも「打者」として高く評価する声も多く聞かれた。
投手としても野手としても、今年の高校生ではトップクラスのスケールを誇ることは間違いない。
近畿大会で4イニングとはいえ、大阪桐蔭を0点に抑えたことも大きな自信となったはず。夏の地方大会と甲子園、さらに秋のドラフトに向けて、ここから注目度がアップしていく可能性は高いだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所