白球つれづれ2022~第24回・交流戦苦戦の一因は落ち着かない捕手問題
セ・パ交流戦はヤクルトの優勝で幕を閉じた。
14勝4敗。勝率は.778を数え、過去最高勝率を記録する圧勝だった。
そのヤクルトと交流戦前には1ゲーム差と肉薄していた原巨人は8勝10敗の負け越し、気が付けばライバルから7ゲーム差と大きく水をあけられた。
「今日は甲子園の決勝のようなつもりで戦っていこうと言うことでスタートしたが、残念ながらこういう結果になってしまった。まだ途中。少し調整、矯正して戦っていく」と楽天との最終戦に大敗後、原辰徳監督は交流戦を振り返りながら、今後の課題を語っている。
「少しの調整と矯正」の中には、いくつもの要素がある。
新外国人、グレゴリー・ポランコのスランプでつながりを欠く打線や、坂本勇人選手をこのまま5番で起用していくのかと言う打順の問題。チームの若返りを図る中で若手投手陣にも陰りは見え出した。そして、もっと深刻なのが起用法すら定まらない正捕手の問題だろう。
打の大城卓三か、守の小林誠司か。この数年、首脳陣も頭を悩ませた正捕手。今季は大城が先発マスクを被る機会も多く、決着はついたかに思えた。
だが、交流戦序盤でその大城が2軍再調整となったあたりから、再びドタバタが始まる。当然、小林の起用は増えたが、今月8日の西武戦がターニングポイントとなった。
この試合は西武先発・與座海人から、平良海馬、増田達至3投手の前に1安打完封の“準完全試合”で完敗。だが、打線以上に首脳陣の怒りを買ったのは小林の緩慢なプレーだったと言われる。
スクイズで追加点を奪われた直後には重盗を仕掛けられて失点を重ねる。あまりに不用意で緩慢なプレーが指揮官の怒りを買ったとしてもおかしくない。翌日の試合からは3年目の山瀬慎之助選手が先発マスクを任されることになった。
ところが、その山瀬にしても楽天戦では第2戦には川島慶三選手に初球を狙い打たれて決勝3ランを献上、続く第3戦も山﨑伊織投手とのバッテリーで2回に9失点の大炎上。落ち着かない捕手問題が交流戦苦戦の一因となったことは間違いない。
正捕手が定まらない「投高捕低」の現状
「投高打低」と言われる今季は文字通りの投手優位のシーズンだ。本来であれば、投手をリードする捕手にも評価が集まってもいいところだが、各球団共に捕手事情はお寒い。
巨人に限らず、阪神、ロッテ、オリックスなども正捕手が定まらない。ヤクルトの中村悠平選手は故障で出遅れ、西武の森友哉捕手は自らの不注意で戦列を離れた。
かつて、野村克也氏は「名捕手のいるところに栄冠あり」と捕手の重要性を説いたが、今では不動の捕手と言えばソフトバンクの甲斐拓也にヤクルトの中村あたりしか、名前が浮かばない。
そんな「投高捕低」の現状にあって、野球評論家の谷繁元信氏が11日付の日刊スポーツで中村と甲斐のプレーぶりを解説しているのが興味深い。
同氏はヤクルト好調の因は中村の存在が大きいと指摘、理に適ったリードでチームに落ち着きを与えていると評価する。
一方で甲斐については、一定の評価はしながらも「正捕手が長くなると自分のリードがパターン化してくるように思えてしまう」としたうえで、「裏をかくリード」に陥りやすいと警鐘を鳴らす。
確かに中村が故障から一軍復帰した5月3日以降、ヤクルトは25勝9敗(1分け)と驚異的に白星を積み上げている。ソフトバンクは楽天に首位を明け渡すなど苦戦が続いている。
さらにヤクルトの好循環を上げるなら、中村が復帰後も毎試合先発マスクを任せずに、若手の内山壮真捕手を起用、中村の疲労軽減と内山の育成を同時に成し遂げている。このあたりは高津臣吾監督の先を見据えたマネジメント能力と言うべきだろう。
捕手の重要性はマウンドにエースが立っている時より、未知数の若手投手の時により問われる。リードで相手の裏をかいて投手にリズムを与え、ゲームを落ち着かせる。
今季の目標に「育成と勝利」を掲げる巨人だが、バッテリー共に育成では勝てる試合も勝てない。
ペナント再開までわずかな期間に原監督はどんな「調整と矯正」を施して来るのか。まずは懸案の捕手問題にきっちりとした答えを出すべきだろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)