“ここぞ”の場面での勝負強さ 大谷翔平が見せる進化の投球
二刀流・大谷翔平の進化が止まらない。
とはいえ、それは投手・大谷に限られたことである。ここまで、打者・大谷は打率.271、2本塁打、15打点(6月27日現在)。もちろん打者に専念していればこれらの数字も大いに変わっているだろう。しかし、それを勘案しても少し物足りなさを感じる。
一方、チームトップの7勝を挙げるなど、投手・大谷の進化は目覚ましい。注目すべきは.169という得点圏被打率だ。規定投球回到達者の中では、球界屈指の好投手・金子千尋(オリックス)に次ぐ12球団中2位。“ここぞ”という場面にめっぽう強いのだ。それがはっきりと表れたのが、6月25日の対DeNA戦。
2点差に迫られた6回裏2死三塁。もうこれ以上点をやれないという場面で、大谷のギアが上がった。アーロム・バルディリスへの初球は158キロ。そして、躍動感あふれるフォームから放たれた2球目は4試合連続となる160キロを記録し二ゴロに打ち取った。ピンチを招くまでとは、まるで別人のような投球を披露してみせたのだ。ちなみに、昨年の得点圏被打率トップは、今やニューヨーク・ヤンキースの勝ち頭として勝利を重ねる田中将大の.159。その田中の強さこそ勝負の場面で見せる「トップギアの投球」である。
投手が疲労する夏場を迎え不安要素は打者・大谷の起用
この日、大谷が見せた大物の片鱗はそれだけではない。5回まで1安打に抑えながらも若干、制球に苦しんでいた大谷。しかし、失点後の7回は、今シーズンに入りキレを増している高速フォークを駆使し、3者連続の空振り三振という圧巻の投球で締めた。
自身も「試合中に修正できた」と語る通り、“不調であっても勝つ”というアジャスト能力を見せつけたのだ。要所でのギアアップに試合中の修正力——―。選ばれた投手だけが持つ特性を、プロ2年目19歳の大谷がすでに我が物にしようとしている。
だが、不安要素がないわけではない。6月11日の対巨人戦、6月18日の対阪神戦はいずれも右ふくらはぎがつって途中降板。明らかに疲労によるものである。しかし、栗山監督は、6月27日の対楽天戦に、前回登板後、中1日の大谷を5番DHに据えた。4タコに終わった結果はともかく、打者・大谷の疲労やけがにより投手・大谷が戦線離脱ともなれば目も当てられない。少々大げさにいえば球界そのものの損失である。
ローテーション通りなら7月1日からの対西武戦での先発が見込まれる。ただでさえ投手が疲労する夏場を迎えた上に、球場は暑さに定評(?)がある西武ドームである。大谷になんらかの変調が見られるようなら、本格的に体ができるまでの間、しばらくは投手1本に専念させるという選択肢があってもよいように感じる。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)