最終回:球団売却発表で再び浮上した大谷の去就問題
日本時間24日、ショッキングなニュースが飛び込んできた。
エンゼルスのアート・モレノオーナーが球団の売却を検討していることが、球団から発表されたのだ。
2003年にエ軍をウォルト・ディズニー社から買収したものの、チームの成績不振は続き、14年以降はプレーオフにも進めていない。今季もアリーグ西地区の下位に低迷。加えて、球団は19年に球場と周辺の駐車場の買収でアナハイム市と合意していたが、その後、同市市長の汚職が発覚してご破算に。こうした一連の動きを見てモレノオーナーは「今がその時」と売却を決意したようだ。
買収時の球団資産価値は日本円で約248億円が、現在では米・経済誌『フォーブス』の試算では約2970億円、まさに「売り時」と言う事なのだろう。
球団の売却となれば、当然大谷翔平選手の今後にも大きな影響を与える事は必至だ。
この夏、大谷に突如、トレード騒動が起こった。
今季の年俸が500万ドル(約6億8千万円、推定以下同じ)の大谷は今オフに年俸調停権を手に入れる。来オフには晴れてFA権も取得すると、新年俸は4000万ドル(約54億円)から、それ以上とも現地で予想されている。
エ軍にとって、大谷の破格の価値は認めながらも、巨額の複数年契約を結ぶマイク・トラウト、アンソニー・レンドーン両選手の存在がネックとなり、これ以上の大幅な支出は球団経営にしわ寄せが及ぶのは間違いなく、他球団の若手有望株数選手と大谷とのトレードも検討されたのだ。
しかし、この放出案を拒否したのはモレノオーナー自身だと言われている。球団の年俸総額が一定額を超えると課される「ぜいたく税」には反対だが、球団の宝とも言うべき大谷を放出すれば、観客動員やグッズ販売にも悪影響は及ぶ。ファンの反発も予想される。
球団経営とチーム強化、さらに地元ファンの夢。すべてを考えた時に同オーナーにも解決策は見つけられず、撤退を決意したのだろう。現地では「新オーナーに売却する時に、大谷は絶対必要なカードだった」とうがった見方をする向きもあることは付け加えておきたい。
大谷の処遇は新オーナーの意向次第だが…
では、球団売却は大谷の去就にどんな影響をもたらすのか?
すでに今夏のトレード騒動の時に、獲得に動いた球団は、検討も含めると10チーム近くに上ったと言われる。中でも有力視されたのが、金銭的にも豊富なヤンキース、メッツ、ドジャースの3球団だ。
一年前には「(ポストシーズンを目指して)ヒリヒリするような9月を目指したい」と語った大谷の真意は全米が注目する時期に“蚊帳の外”は御免と言うもの。だが、一方でヤ軍やド軍のような強力チームに移籍した場合は、大谷だけに用意される「特別なローテーション編成」や「指名打者の独占」などは難しくなる。理想は今の環境で、投手陣も含め強化されれば残留が一番だろう。
エ軍とは、今春のキャンプ段階で非公式ながら新たな契約に向けて話し合いが行われたと言う情報もある。
球団としても、来オフのFA前に残留を目指すなら、今年のオフに長期契約を結びたい。ところが、大谷と球団双方にとって、新たな売却先が決まらなければ正式なテーブルにもつけないという問題が起こった。
地元紙である『オレンジ・カウンティ・レジスター』では気になる記事が掲載されている。
「売却が完了するには1~2年先になる可能性もある」と言うのだ。
今年に入って、ワシントン・ナショナルズの売却が4月に発表されたが、この夏の段階でも、まだ交渉は初期段階と言われている。さらにこのナ軍の売却が完了しないと、エンゼルスの本格交渉まで進まないと言う見方もある。
仮に売却が長期化すれば、新オーナーが大谷の処遇をどんな形で求めているのか、大谷が最も重要視する球団の長期的ビジョンも見えて来ない。
今や、全メジャーリーガーからも尊敬の念を抱かれているスーパースターの中のスーパースター。こちらの“ストーブリーグ”は五里霧中と言うしかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)