コラム 2022.09.01. 18:18

3年前に始まった神様への道【“村神様”の一強時代】

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ヤクルト・村上宗隆 (C) Kyodo News

9月連載:“村神様”の一強時代


 ヤクルトの村上宗隆選手の打棒が爆発している。

 8月の月間成績は打率.440に、12本塁打、25打点。すべての数字を押し上げて、ただいま三冠王に向けて快走中だ。

 22歳にして、数々の年少記録を更新するモンスターにつけられた新ニックネームは「村神様」。まさに神がかった働きで、チームも連覇まであとわずか。ヤクルトと言う球団を変え、球界の歴史まで次々に塗り替える怪物はどうして生まれたのか? 神様誕生の軌跡を追ってみる。


第1回:無名に近い“金の卵”が「村神様」に昇華


 長く野球取材に携わっていると、度肝を抜かれるホームランを何度も見てきた。巨人・王貞治の868号に、阪神・田淵幸一の芸術的なアーチの軌道。西武時代の清原和博の新人にして31本の本塁打も忘れられない。
 そんな中で、衝撃の一発を目撃したのは18年9月のことだ。

 神宮球場で行われた広島戦。プロ初の先発出場を果たした背番号55の若武者は第1打席で離れ業をやってのける。広島・岡田明丈投手の速球を右中間スタンドに叩き込んだ。打席での雰囲気とスイングスピードの速さ、他を圧する飛距離。この時、村上宗隆と言う選手の存在が頭に残った。

 「この若者は、将来、凄いバッターになる」。

 18年の村上の一軍成績は12打数1安打。つまりこの1本の本塁打しか打っていない。それから4年後。無名に近い“金の卵”は日本球界の話題を独占する「村神様」に昇華していた。


 村上にとっても記憶と記録に残る夏となった。

 8月2日の中日戦で、前の阪神戦から5打席連続本塁打の日本新記録をマークすると、11日の広島戦で史上最年少の40号到達。その後も43、44号を連発した21日には、打率もトップに躍り出て三冠ペースに乗る。さらに月末のDeNAとの首位攻防3連戦では14打席連続出塁に9打数連続安打の離れ業。手の付けられない4番には故意四球も増えて、31日の巨人戦では2年連続の100四球と言う勲章まで加わった。

 村上の神様たる所以は、単に打撃だけにとどまらない。ベンチにいる時は最前列で誰よりも声援を送る。自軍がピンチに陥ると真っ先にマウンドに駆けつけて投手に声を掛ける。そんな若武者らしからぬリーダーシップと振舞いには、昨年からネット上で「村上監督」の文字が躍っている。

 ベテランが幅を効かす縦割り社会。先輩と後輩の間には体育会気質が今でも存在する。それなのに、22歳の村上はどうしてここまでのリーダーシップを発揮できたのか?

 昨年、村上は自身の立場をこう語っている。

 「4番を任される自分はどう振る舞って、チームを引っ張っていかなければいけないか? 青木さんならどうするか? を考えた」

 コロナ禍が直撃した昨年4月、主軸の青木宣親や山田哲人選手らが相次いで戦列を離れた時、チームを引っ張るのは4番の仕事、年齢は関係ないと腹をくくった。もっとさかのぼれば、こうした自覚は青木に誘われて実施した3年前の米国自主トレにたどり着く。

 プロの打撃とは? 4番の役割とは? チームを引っ張るとは?

 青木の指導は技術面にとどまらず、精神面や人間性にまで及んだ。

 その結果はどんな成果を村上にもたらしたのだろう。

 「若いのに自分をしっかりと持っている。野球に対する考え方が素晴らしい」と山田が語れば、球団のレジェンドでもある宮本慎也氏も「打って結果を出している時でもヘラヘラしない。勝負の世界で大事な軸を持ち、ブレがない。大黒柱になれるような資質と気質を兼ね備えている」と最上級の評価を与えている。
(共に昨年10月27日付、スポーツニッポンと日刊スポーツ掲載から)

 5年前の入団時から、球団は村上に対して将来の4番としての英才教育を施した。2軍監督だった高津臣吾現1軍監督も、小さなミスをあげつらうより、大きく、のびのびと育て上げた。青木がいて、山田がいて、チームの三男坊のような怪物君にはヤクルトと言う球団の土壌がぴったりとはまったのだろう。

 「4番の仕事はチームの勝利」と日頃から言ってのける「村神様」がついている限り、黄金時代は続く。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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