新指揮官が掲げた“テーマ”
岡田彰布新監督のもと、タイガースは3年ぶりとなる秋季キャンプを高知県安芸市で行っている。
2008年に退任して以来、14年ぶりにユニフォームに袖を通した指揮官は、早くも若虎たちに“イズム”を注入。初日から目立ったのは、活況を呈したブルペンだった。
参加投手のうち、今季一軍でシーズンを完走した先発の伊藤将司と、リリーフでフル回転した浜地真澄を除く計11投手がマウンドに上がって腕を振った。
特筆すべきはその中身だ。この日、11投手が投じた計757球はすべてが直球。偶然ではなく、岡田監督が20代の若手投手陣に求めた今秋のテーマそのものだった。
「ストレートの威力をもう1段階上げる」
キャンプイン前の10月下旬。甲子園球場で行われた秋季練習で指揮官は投手を集め、直球の質の向上を求めた。
「自分のストレートの威力をもう1段階上げるというか、その感覚をつかむというか。(伝えたのは)そういうことやけど」
現代野球では150キロ~160キロのボールは珍しくなくなった。それでも、「球速」で必ずしも打者を圧倒できるかと言われれば、そうではない。
指揮官も評論家としてネット裏からそんな光景を目にしてきたのだろう。
「160キロを投げても体感がスピンも何も利いていない、ただの棒球の150キロくらいの威力なら打たれるわな。数字的には145キロぐらいでも、打席に立ったら150キロ近い威力の方が、バッターは困るやんか」
自軍で言えば、140キロ中盤の球速帯で今季も28セーブを挙げるなど勝ちパターンを担う岩崎優が好例だろう。独特の投球フォームから繰り出される150キロ未満の直球に打者は振り遅れ、バットが空を切る。
“原点強化”でスケールアップを
監督は若虎たちにミッションを課した上で、その方法論も提示した。
「スピンのあるボールをクロスで高めに。試合になったら低め低めにいかなあかんけど、この時期はその必要はないから」
実際、安芸のブルペンに足を運べば右投手は右打者の外角高め、左投手は右打者の内角高めと、投じられるボールのほとんどが高めに構えられた捕手のミットに吸い込まれていく。
今秋だけは、投球の基本と言われる「低め」の制球も無視。セオリーから外れた“岡田式”の投げ込み指令に応えるように、次代を担う面々が力強く腕をしならせている。
今キャンプに関しては、第2クールまでブルペンでは直球だけに限定。変化球は午後からの個別練習で解禁されている。
さらに、ブルペン入りの回数も、球数を減らしてでも毎日入ることを首脳陣は推奨。新球習得やフォーム改造よりも、まずは「直球」を磨いていく。指揮官が投手に求めるものは明確だ。
チームで随一の球威を誇る才木浩人。「このキャンプはどっちかと言うと変化球を練習したかったんですけど……」と言いながら、「まっすぐありきの変化球なので。(第3クール以降のブルペンで)カーブの後のまっすぐがどれだけ良い精度で投げられるか気にして投げたい」と、自身の課題とも向き合いながらも直球をさらに進化させる意気込みだ。
各々が“原点強化”でスケールアップを目指す秋。球速では計れない唯一無二の「まっすぐ」を、どれだけの選手が手にできるだろうか。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)