1月連載:指揮官が見る新たな景色
プロ野球12球団が本格的に動き出した。
新年の事務所開きから、選手たちの自主トレもキャンプに向けて激しさを増す。今季は阪神・岡田彰布、西武・松井稼頭央ら4人の新監督が誕生、FAではソフトバンクに近藤健介やオリックスに森友哉選手らが移籍するなど新陣容がどんな化学反応を引き起こすのか、ファンならずとも興味深い。
頂点に駆け上がったチームは戦力の更なる充実に動き、敗者に回ったチームは弱点を補い逆襲に目の色を変える。監督にとっては最もチーム作りの構想を練る時期。そこで注目球団の長所とウィークポイントを洗い出しながら、指揮官の青写真を検証してみたい。
第1回:西武・松井新監督に課された投打の問題
一昔前には、球界の覇権を握っていた西武が、低迷期に入って久しい。
18、19年には辻発彦監督の下でリーグ優勝は果たしたもののクライマックスシリーズで敗れ、日本一には13年遠ざかっている。
そこで、再建の切り札として登場したのが松井稼頭央新監督だ。
現役時代は走攻守三拍子揃ったリードオフマンとして日米で活躍、その後、楽天を経て西武に戻ると二軍監督や一軍のヘッドコーチとして帝王学を学んできた。満を持しての指揮官就任である。
「凡事徹底」。新監督が選手に求めるものは基本に立ち返ることだ。小さなことを積み重ねた上に、理想とする攻守にスキのない野球がある。
「今の野球は、投手のレベルが上がり、なかなか1点が取れない。そうした中で、エンドランだったり小技が重要になる。脚を使った積極的な野球を心掛けていきたい」現役時代は3度の盗塁王に輝くなど日米通算465盗塁を記録した元機動戦士らしい方向性を強調する。
西武と言えば、伝統的に強打線を売り物にしてきたが、この数年は大きな転換期にある。昨年はチーム防御率が2.75でリーグトップだったのに対して、同打率.229は最下位。さらに同盗塁数60もリーグワースト。これでは打倒オリックスも難しい。かつては、弱体と言われた投手陣の整備は進みつつある。次は少ない安打でも得点できる、そつのない野球がチーム躍進の鍵を握る。
昨年から今年にかけて、松井西武には大きな課題が残されている。
正捕手だった森友哉選手がFA権を行使して、オリックスに移籍。守りも痛いが3番打者を失い、打線に大きな穴が開いた。
さらに絶対的な中継ぎエースだった平良海馬投手が契約更改の席で先発転向を直訴、話し合いは球団が折れる形で決着を見た。だが、先発陣の底上げになったものの勝利の方程式と言われる鉄壁なリリーフ陣にから見れば、こちらも穴。平良の出番だった8回を誰に任せるのか、新たな難問が加わった。
森の抜けた3番に、平良のいなくなる8回に加えて、秋山翔吾選手(現広島)がメジャー挑戦後に不在となった1番打者の問題も積み残ったまま。つまり「1、3、8問題」が解消されなければ、上位進出も難しい。
球団としては、森の抜けた穴を日本ハムからFA宣言した近藤獲得に動いたがマネーゲームでソフトバンクに敗れた。そこで新外国人のマーク・ペイトン、デビッド・マキノン選手らを獲得、ドラフト1位の蛭間拓哉、現役ドラフトで阪神から移籍する陽川尚将選手らに打線強化を託すが、どれだけの活躍を見せるかは未知数としか言えない。新監督には何とも酷なスタートとなる。
そんな中で光明を見出すとすれば、このチームの持つしぶとさがある。言い換えれば「勝者のマインド」と言ってもいい。
過去に松坂大輔や松井監督自身がメジャーに挑戦した時も、菊池雄星や秋山が海を渡った時もチームの弱体化が叫ばれた。しかし、そのたびに若手選手が成長して危機を救ってきた。
外野陣を見れば、現状でレギュラー当確は一人もいない。しかし、若林楽人、鈴木将平、愛斗ら伸び盛りで機動力を使えそうな若手選手は多い。彼らが松井イズムの「スキが無く、そつのない野球」を体現できれば、台風の目以上の存在となるだろう。
2月1日、他球団が一斉に南国の地でキャンプインするのに対して、西武だけは5日から宮崎入りする。はやる気持ちを抑えて、じっくりと下半身の強化に時間を割くのが狙いだ。
大揺れのオフを乗り切って新たな第一歩。「1、3、8」の難問を解いたとき、松井西武の逆襲が始まる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)