2月連載:キャンプのツボ
プロ野球は2月1日、西武を除く11球団がキャンプインした。
昨年パリーグの最下位に沈んだ日本ハムは初日から紅白戦を実施すれば、例年より遅い開幕に照準を合わせる西武は6日から宮崎・南郷キャンプをスタートさせるなど、それぞれの思惑が見て取れる。
例年ならマイペース調整の許される主力選手も、今年は3月9日に開幕するWBC出場組は早めの仕上げが要求されるので必死だ。
新人選手に、新外国人。さらにはトレードで加わった新戦力までがこの時期にどれだけアピール出来るかがチームの底上げに直結する。
各チームの抱える課題は? 注目の選手は? キャンプで浮き彫りとなる新たなポイントをチェックしてみたい。
第1回:8年目の覚醒へ…“眠れる大器”は新天地で真価を発揮できるか
「大物有望株」「金の卵」。球界には過去にそう呼ばれて、真価を発揮できないまま消えていった選手が山ほどいる。
今季から巨人に移籍したオコエ瑠偉選手もすでにプロ8年目、25歳。その立場は剣が峰に立たされていると言ってもいいだろう。
宮崎キャンプの初日。注目の男が打撃練習を始めると、原辰徳監督、大久保博元チーフ打撃コーチら首脳陣が熱い視線を送る。すぐさま指揮官からチェックが入った。
「もう少しベース寄りに立って打ってみたら」。打席での位置がかなり後ろ寄りだったものを修正すると、内角球も鋭く反応。フリー打撃では57スイングで7本の柵越えを記録した。
「元々、いいものを持っている。あとは一日一日を大切に送って欲しい」と原監督が潜在能力を評価すれば、大久保コーチも「打撃はレギュラー級」と期待の大きさをのぞかせた。誰もが素材の良さを認めながら、結果を残せないまま7年の歳月が過ぎた。
昨年の12月9日、球界では画期的な催しが行われた。第1回の現役ドラフトだ。
出場機会に恵まれない選手の移籍で球界全体の活性化を図るもの。
楽天のオコエは巨人に指名され、巨人からは戸根千明投手が広島へ、広島からは正隋優弥選手が楽天に移籍が決まった。オコエにとっては、願ってもない巨人入りだったに違いない。
古巣の楽天では将来の展望さえ描けないのが現状だった。
走攻守三拍子揃った大型外野手として15年にドラフト1位で入団したが、7年間の通算成績は打率.219で9本塁打、44打点と、特筆すべき数字も残っていない。
特に直近の3年間では20年は一軍出場なし、21年は左手首と左膝の手術で満足に働けず、昨季に至っては一軍で6試合しか起用されていない。
伸び悩んだ最大の因は「心の部分」を指摘する声が大きい。かつて自主トレに彼女同伴で臨み自覚不足を指摘されたことがあった。2年前には石井一久監督兼GMから「自分の置かれている立場をわきまえないと、居場所がなくなる」とまで苦言を呈されたが改善の余地は見えずじまい。昨季、二軍では3割を超す好成績を残しながら、一軍に声がかからなかったのは野球以前の問題だったのだろう。
今季の巨人では、外野陣の大配置転換が予想されている。長年、中堅を任されてきた丸佳浩選手を右翼にコンバート。左翼は昨年活躍したアダム・ウォーカー選手がレギュラー筆頭格で、中堅に誰が定着できるかが注目ポイントだ。
現状では新外国人のルイス・プリンソン選手に期待が集まるが、それ以外はオコエ、ルーキーの萩尾匡也に、3年目の秋広優人選手らが控え、二軍組には松原聖弥、重信慎之助らの実力者もいる。オコエにとっては楽天時代以上の激戦区で一軍切符を掴まなければ、もう後はない。
俊足、強肩は折り紙付き。打撃でもキャンプ初日から首脳陣にアピール出来た。要はなりふり構わず野球に打ち込む姿勢が続けば、おのずと道は開ける。
巨人にとっては「化けてくれれば拾い物」のトレードかも知れない。だが、オコエにとっては「現役ドラフト1期生」として、結果を残さなければならない使命もある。球界初の試みが成功すれば、今オフ以降に各球団の取り組み方ももつと熱を帯びてくる可能性があるからだ。
今年の巨人キャンプは大久保コーチ発案による「アーリーワーク」が話題を呼んでいる。朝7時には個人練習を開始するから、選手たちは早起きに戦々恐々だと言う。過去に寝坊歴もあるオコエは「顔に冷水を浴びても起こして」とジョーク交じりで新生活に取り組む。
眠れる大器は環境を変えることで覚醒するのか? V奪冠を至上命題としている巨人にとっても見逃せない人材である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)