白球つれづれ2023~第8回・待望の和製大砲へ…本格覚醒の予感漂うロッテ・山口航輝の期待値
「5戦4発」スポーツ紙に派手な見出しが躍る。
主役はロッテの5年目、山口航輝選手だ。WBC一色の今年のキャンプにあって、こんな記事を目にすると妙に嬉しくなる。
19日に行われたヤクルトとの練習試合。途中から指名打者として登場した期待の22歳は8回にヤクルト・尾仲祐哉投手から中越えの一発。これで2月14日(中日戦)から始まった“他流試合”5試合目で4本のアーチを量産。この間の打率も13打数6安打の打率.462厘と非の打ちようがない。
本物の大砲に、覚醒の予感がする。
昨年はチームトップの16本塁打でレギュラー確保に近づいた。2月のこの時期は若手の働きが目立つものだが、単なる「早咲き」に見えないのは、それなりの実績があるからだ。
日本ハムの主軸と期待される清宮幸太郎選手と比較すると面白い。
昨季、129試合に出場した清宮は打率.219で18本塁打、55打点。これに対して山口は102試合で打率.237に、16本塁打、57打点。極めて似通った数字だが打数を見てみると清宮が406に対して山口は321と大幅に少ない。仮に同数なら山口のホームラン数は清宮を越していてもおかしくない。年齢は山口が1歳下だから、いかに楽しみな素材であるかがわかる。
持ち前のパワフルな打撃は入団時から高い評価を受けていたが、手痛い故障に泣かされてきた。プロ1年目の秋季キャンプで左脚かかとを骨折。高校時代(秋田・明桜高)にも、ヘッドスライディングの際に右肩亜脱臼の大けがを負っている。故障で出遅れた分はファームで鍛え直し、プロのスピードにも慣れた。
「今シーズンの目標は30本塁打」と公言する。もし、大学に進学していたら今年がルーキーイヤーとなる。大卒新人でも30ホーマーを口にする選手はなかなかいない。そう考えれば、決して回り道ではないだろう。
今オフには西武の山川穂高選手の自主トレに参加。風船を口にくわえて打撃練習する姿は多くのマスコミに取り上げられた。風船を目一杯膨らませたところで息を止める。自然と腹筋を意識して下半身主導のバッティングが出来ると言う山川流の極意だ。本塁打、打点の二冠王に耀く師匠はWBC侍ジャパンの世界一に照準を合わすが、弟子は本塁打の量産に手応えを感じている。
山口のレギュラー定着がチーム浮沈のカギ
山口の爆発はチームに新たな風も呼んでいる。
18年のドラフト同期、藤原恭大、1年先輩の安田尚憲選手ら期待の若手が「山口効果」を口にする。
19日の同試合でランニングホーマーを記録するなど、こちらも練習試合に4割以上の高打率を残す藤原は「山口を一番意識している。負けたくないので自分もしっかりアピールしていきたい」と語れば、初本塁打をマークした安田も「山口が4本も打っているので、何とか1本と思っていました」と意地を強調した。
昨年、5位に沈んだチームはオフに大改革を行った。井口資仁前監督から吉井理人監督にバトンタッチだけでなく、外国人選手も大幅に入れ替えて戦力アップを狙っている。
中でも注目されるのは、近年のロッテ打線を牽引してきたブランドン・レアード、レオネス・マーティンの退団と昨年、巨人に在籍したグレゴリー・ポランコ選手の加入だ。
一昨年は29本塁打のレアードが昨年は15本、同じくマーティンも27本から9本と激減。チーム本塁打も97本に終わった昨年は破壊力を失い、低迷の大きな因となった。そこに巨人で24本塁打のポランコだけではおぼつかない。だからこそ、山口のレギュラー定着は浮上のキーポイントともなるわけだ。
チームの外野戦争を見ていくと、昨年の実績なら盗塁王の髙部瑛斗と規定打席不足ながら3割を記録した荻野貴司両選手の定位置確保が有力。残る一つのポジションを山口、藤原、ポランコらが争う形となる。指名打者にポランコか、山口が起用される可能性も残っている。はたまた、ベテラン・荻野を押しのけて期待の若手たちが突き上げるか。
「日本一 ファンと共に 見る景色」俳句好きの山口が詠んだ一句である。
球団では今春の初売りグッズとしてTシャツとタオルを販売した。しかし、本人は優勝するまで“封印”すると言う。
満点のすべり出しを見せる山口の成長曲線。目標とするレギュラー定着と30発が実現した時、新たな一句も用意されるはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)