今年の選抜は、投手も野手もプロのスカウト陣が注目するドラフト候補が多いと見られている。その中でも昨年秋のプレーぶりから野手の筆頭候補が、豊川が誇る強打の外野手、モイセエフ・ニキータだ。
▼ モイセエフ・ニキータ(豊川)
・外野手
・180センチ/82キロ 左投左打
<2023年秋季大会成績>※明治神宮大会を含む
17試 率.571(63-36) 本6 点32
打席79 二塁打7 三塁打2 盗塁7 犠飛打6 四死球10
出塁率.582 長打率1.032 OPS1.614
<各塁へのベスト到達タイム>
一塁到達:4.18秒
二塁到達:8.40秒
三塁到達:11.90秒
2014年の選抜で春夏通じて甲子園初出場を果たし、ベスト4まで進出した豊川。当時のチームはエースの田中空良(元・東邦ガス)、キャッチャーの氷見泰介(現・東邦ガス)のバッテリーを中心としたチームだったが、10年ぶりの出場となる今年はチーム打率4割を超える打力で秋の東海大会を勝ち上がってきた。
その強力打線を牽引するのが、3番を打つモイセエフ・ニキータだ。ロシア出身の両親を持つものの、自身は愛知県で生まれ育ち、小学校から野球を始めたという。豊川に進学後、1年春からベンチ入りし、秋にはクリーンアップに定着した。昨年夏の愛知大会でも5割近い打率を残している。
筆者が初めてプレーを見たのは、昨年秋の東海大会準決勝の対宇治山田商戦だった。この試合でモイセエフは第2打席でセンターオーバーのツーベースを放つと、その後の打席でも快音を連発。5打数4安打の大活躍で、チームの劇的な逆転勝利に大きく貢献した。
彼の名が全国に轟いたのが、明治神宮大会での活躍だ。初戦の対高知戦では相手の厳しいマークもあって第1打席は空振り三振に倒れたものの、第2打席にはすぐに対応してファーストへ鋭い当たりを放ち(記録は一塁手のエラー)、第3打席にはライトへのタイムリーツーベース、第5打席には同点に追いつく犠牲フライを放ち、2打点をマークしている。続く準決勝の星稜戦でも、第1打席にライトスタンドへソロホームランを叩き込むと、第2打席にはセンター前へ火の出るような当たりのクリーンヒットを放った。
特に、星稜戦のホームランには驚かされた。打った瞬間は完全に打球が上がり過ぎたと思われたが、そのまま落ちることなくスタンドまで届いたのだ。この時の神宮球場は決して追い風が吹いていたわけではない。それだけヘッドスピードとインパクトの強さがずば抜けている証明と言えるだろう。
バッティングのスタイルはバットを高く上げて大きく構え、少しヘッドを揺らしながらタイミングをとり、全身を使ってフルスイングすることができている。ホームランや長打を打ったスイングだけを見ればパワー自慢の選手のように感じるかもしれないが、秋の公式戦の打率が5割を超えていることからも分かるように対応力も高い。
特に、右足を踏み出してから振り出すまでに“間(ま)”を作ることができ、下半身に粘り強さがあるため変化球にもだまされずについていくことができるのだ。
センターの守備は、落下点に入るまでが速く、スローイングの強さを備えている。そして、何よりも勝負所や大舞台で力を発揮できるスター性が大きな魅力である。
今年の選抜からは反発力を抑えた新基準のバットが導入され、打者が不利になるという声が多い。そんな周囲の声を吹き飛ばすようなフルスイングで、甲子園でも豪快な打撃を見せてくれることを期待したい。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所
▼ モイセエフ・ニキータ(豊川)
・外野手
<2023年秋季大会成績>※明治神宮大会を含む
17試 率.571(63-36) 本6 点32
打席79 二塁打7 三塁打2 盗塁7 犠飛打6 四死球10
出塁率.582 長打率1.032 OPS1.614
<各塁へのベスト到達タイム>
一塁到達:4.18秒
二塁到達:8.40秒
三塁到達:11.90秒
両親はロシア出身、本人は愛知生まれ
2014年の選抜で春夏通じて甲子園初出場を果たし、ベスト4まで進出した豊川。当時のチームはエースの田中空良(元・東邦ガス)、キャッチャーの氷見泰介(現・東邦ガス)のバッテリーを中心としたチームだったが、10年ぶりの出場となる今年はチーム打率4割を超える打力で秋の東海大会を勝ち上がってきた。
その強力打線を牽引するのが、3番を打つモイセエフ・ニキータだ。ロシア出身の両親を持つものの、自身は愛知県で生まれ育ち、小学校から野球を始めたという。豊川に進学後、1年春からベンチ入りし、秋にはクリーンアップに定着した。昨年夏の愛知大会でも5割近い打率を残している。
筆者が初めてプレーを見たのは、昨年秋の東海大会準決勝の対宇治山田商戦だった。この試合でモイセエフは第2打席でセンターオーバーのツーベースを放つと、その後の打席でも快音を連発。5打数4安打の大活躍で、チームの劇的な逆転勝利に大きく貢献した。
明治神宮大会で猛打爆発
彼の名が全国に轟いたのが、明治神宮大会での活躍だ。初戦の対高知戦では相手の厳しいマークもあって第1打席は空振り三振に倒れたものの、第2打席にはすぐに対応してファーストへ鋭い当たりを放ち(記録は一塁手のエラー)、第3打席にはライトへのタイムリーツーベース、第5打席には同点に追いつく犠牲フライを放ち、2打点をマークしている。続く準決勝の星稜戦でも、第1打席にライトスタンドへソロホームランを叩き込むと、第2打席にはセンター前へ火の出るような当たりのクリーンヒットを放った。
特に、星稜戦のホームランには驚かされた。打った瞬間は完全に打球が上がり過ぎたと思われたが、そのまま落ちることなくスタンドまで届いたのだ。この時の神宮球場は決して追い風が吹いていたわけではない。それだけヘッドスピードとインパクトの強さがずば抜けている証明と言えるだろう。
バッティングのスタイルはバットを高く上げて大きく構え、少しヘッドを揺らしながらタイミングをとり、全身を使ってフルスイングすることができている。ホームランや長打を打ったスイングだけを見ればパワー自慢の選手のように感じるかもしれないが、秋の公式戦の打率が5割を超えていることからも分かるように対応力も高い。
特に、右足を踏み出してから振り出すまでに“間(ま)”を作ることができ、下半身に粘り強さがあるため変化球にもだまされずについていくことができるのだ。
センターの守備は、落下点に入るまでが速く、スローイングの強さを備えている。そして、何よりも勝負所や大舞台で力を発揮できるスター性が大きな魅力である。
今年の選抜からは反発力を抑えた新基準のバットが導入され、打者が不利になるという声が多い。そんな周囲の声を吹き飛ばすようなフルスイングで、甲子園でも豪快な打撃を見せてくれることを期待したい。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所