プロ野球を盛り上げてきた「ライバル対決」
プロ野球の世界では、「あいつにだけは負けたくない」というライバル心が、成長の糧になったりする。
たとえば、阪神・江夏豊と巨人・王貞治による対決は、勝負を越えた「対決の美学」があった。
王は「江夏はストレートしか投げない。それでも打てない」と言った。それでも、江夏がもっともホームランを打たれた打者は王で20本だった。江夏は江夏で「三振記録は王さんから」と王を強く意識。通算1000三振をわざと王から取りにいったという話も有名だ。
他にも、阪神・村山実と巨人・長嶋茂雄。天覧試合で長嶋が村山から打ったサヨナラホームランは、昭和野球史に必ず出てくる話だろう。
近年では、清原和博と伊良部秀輝や、清原と佐々木主浩などが有名なところ。清原と野茂英雄という勝負も、多くのファンがたのしみにしていたものだ。
さて、ここ数年のプロ野球で、ライバル対決を思い出そうとすると、なかなか出てこないような気がする。なぜなのかを考えてみた。
まずは、日本人の個性的なホームランバッターが少なくなったということ。日本ハムの中田翔あたりは、数少ない長距離砲だが、それでも物足りない。
さらにいえば、個人vs個人の対決は、チームの勝敗の前には無意味だと思われてしまうこと。大きく考えて、この2つが上げられるのではないか。
たしかにチームの勝利は最優先事項。それは昔もそうだった。だがしかし、それ以上に個人と個人による対決をファンが楽しみ、球団もそれを後押ししたという時代があったのだ。それが、プロ野球にファンが根づいた理由にもなったわけで、いつしか始まった勝利至上主義が、ファン離れを加速させたような気もする。
今の「ライバル対決」はチーム内の争い?
今で言うと、対戦相手というよりも同じチーム内に「ライバル」がいるケースが多い。
たとえば、巨人でいえば内海哲也と杉内俊哉、坂本勇人と長野久義など。同年代で同じくらいの実力を持った選手同士がライバルとなりうるのだが、ややもすると「仲良し」と見られがち。お互いが切磋琢磨するならいいが、傷のなめ合いになってはいけない。
プロ野球の人気低迷が叫ばれて、ずいぶん経過した。巨人戦の地上波テレビ中継がなくなり、プロ野球の視聴率は軒並み低い。理由はいろいろあるだろうが、その一つに「ライバル対決がなくなってきた」ことが考えられる。逆にいえば、「ライバル対決」が増えれば、ファンも増えるのではないか。
いま、一番影響力の強い打者といえば、ヤクルトの山田哲人か、ソフトバンクの柳田悠岐あたりか。
山田のライバルは誰になるだろう。それが思い浮かばない。山田にはあえて「ライバルはあいつ」と言うぐらいに発信してほしいと思う。
たとえば、セ・リーグの本格派では、阪神の藤浪晋太郎か。山田が履正社高、藤浪は大阪桐蔭高という大阪のライバル同士であり、学年で言うと山田が2つ上。いまやともに日本を代表する選手になりつつあるだけに、「山田vs藤浪」が名物対決になればおもしろい。
では柳田のライバルは…。やはり思い浮かばない。昨年は2人ともトリプルスリーを達成した好打者。ライバルは誰でもいいわけではない。自他ともに認める相手でないといけないし、面白くない。
「あいつにだけは負けたくない」――。そんなライバル対決が、これからどんどん増えてほしい。それが、プロ野球人気回復の起爆剤になるだろう。そんなプロ野球を、ぜひ見たいと思う。