王者ソフトバンクは正捕手不在
2015年、ソフトバンクが圧倒的な強さで日本一に輝いた。勢いそのままに、今年もとにかく強い。摂津正、武田翔太、中田賢一に、メジャーから古巣に復帰した和田毅を加え、厚みを増した先発陣に、森唯斗、五十嵐亮太など経験豊富な中継ぎ陣、守護神サファテへの継投は、隙がない。
打線は、内川聖一、柳田悠岐、松田宣浩など。オープン戦で初めてソフトバンク打線を目にしたヤクルトドラ1投手原樹理の言葉を借りると「エグい」。李大浩がメジャー挑戦のために退団したが、抜けた穴を感じさえない迫力は健在。このように、「投」「打」共に抜け目ないチーム状況であるが、こと「捕」に関しては、事情が異なる。
ソフトバンクの捕手のなかで、最多の試合出場は高谷裕亮で、100試合に満たず93試合。試合数は比較的多いように感じられるが、打席数は192。一試合平均2打席程度で、出場した試合でフル出場はしていないことが伺える。出場試合数では、高谷に次いで59試合の細川亨、56試合の鶴岡慎也と続く。あれだけの強さを誇るホークスには、正捕手が不在なのだ。
投手をつなぐ「継投」ならぬこの「継捕」の傾向は、ホークスに限ったことではない。15年シーズン、100試合出場した捕手登録の選手がいる球団は、7チームある。
日本ハム 近藤健介(129試合)
西武 炭谷銀仁朗(133試合)
西武 森友哉(138試合)
オリックス 伊藤光(104試合)
楽天 嶋基宏(117試合)
ロッテ 田村龍弘(117試合)
ヤクルト 中村悠平(136試合)
巨人 阿部慎之助(111試合)
このうち、阿部、近藤、森は、野手としての出場が多く、純粋に捕手としての出場試合数ではない。
100試合以上出場していないチームも
上に挙げたチーム以外、実に半数のチームは、100試合以上出場した捕手を持たないということになる。
中日は、杉山翔大(64試合)、松井雅人(51試合)、桂依央利(47試合)。阪神は、昨季限りで引退した藤井彰人(71試合)、鶴岡一成(70試合)、梅野隆太郎(56試合)。DeNAも、嶺井博希(74試合)、高城俊人(64試合)、黒羽根利規(63試合)。2人から3人の捕手で、試合数を分け合いシーズンを戦うスタイルが、定着してきている。おそらく、首脳陣としては図らずも定着して「しまっている」というところであろう。
捕手は、唯一のポジションで、往年の名捕手達は10年、15年と、扇の要から席を外すことがない。その「どっしり感」が、チームを支えるのであるが、皮肉なことに、その間に後継者が経験を積めず、育たないことで、引退後、要の「どっしり感」は「すっぽり」感に早変わりする。ヤクルトは長年、古田敦也の後継者探しに苦労し、ようやく中村悠平という正捕手が育ち、15年のリーグを制覇した。
しかし、巨人、阪神、日本ハム、そしてソフトバンクは、正捕手を持たないまま15年、Aクラス入りを果たしている。絶対的な捕手を中心に勝つチームは、確かに安定するが、その後にやってくる「空白の数年」を覚悟する必要があるのかもしれない。
しかし、投手の継投のように、捕手も繫ぎながら経験を積ませることは、投手との相性も見え、故障による離脱へのチームの備えにもなる。そんな角度で「正捕手不在」を捉えると、ソフトバンクホークスの黄金時代到来へのさらなる強い確信を覚えざるを得ない。