「今年は絶対チャンスをものにしたい」
開幕当初、桑原将志は出番に恵まれなかった。
プロ入り5年目のシーズン、「今年は絶対チャンスをものにしたい」と意気込んではいたものの、リードオフマンには打力を買われた白崎浩之が起用され、センターには荒波翔が選ばれた。
1番サード・白崎、2番センター・荒波の打順は開幕からしばらく固定され、桑原に与えられたのは、代走や代打、守備固めといったあくまでサブ的な役回りだった。
それでも、巡ってきた数少ない打席で結果を残すと、4月6日の中日戦で今季初のスタメン入り。9日にはマルチヒット、10日は2安打、2四球で全打席出塁を果たし、チームの勝利に貢献した。
ダイビングキャッチの好守備あり、死球の激痛に耐えながらの出塁あり、2試合連発のホームランあり...。苦境のチームの中で存在感を増した22歳は、チームにとって欠かせない存在になりつつある。
リスク覚悟の「積極性」
今季の好調の要因は、2つのキーワードに絞られる。
1つ目は「積極性」だ。とにかく早いカウントから、ストライクと見れば振っていく姿勢は鮮明に見て取れる。
象徴的だったのが4月10日のヤクルト戦。初回、先頭打者として打席に立った桑原は、その初球を左中間に運び、二塁まで到達した。続く打者のバットからも快音が生まれ、初回に一挙3点を先制。桑原の初球打ちは、前日10得点と大勝していた打線の勢いをこの日の試合にそのまま持ち込む呼び水となった。
一方で、早打ちにはリスクもつきまとう。凡打に終われば「淡白な攻撃」と指摘されかねず、打線の勢いを削ぐことになる可能性もあるからだ。
しかし桑原は、きっぱりと言う。
「ツーストライクまで簡単に取られてあっけなく終われば、その前に打つべきボールがあったんじゃないかということにもなるし、凡打のことを考えてたら絶対ダメだと思う」
「もちろん試合の流れによっては我慢しなければいけない時もありますけど、ピッチャーは絶対にストライクがほしいはずだし、積極的に振ってこられた方がイヤだと思う。そうすることで自然と、自分に有利なカウントがつくれるようになるんじゃないかなって」
この言葉は、図らずも、2つ目のキーワードについても言及している。
覚えた「我慢」が飛躍のカギ
「試合の流れによっては我慢しなければいけない時もある」
本人はさらりと言ったが、今季の桑原は「積極性」と同時に「我慢」をも実践できているのだ。
四球数の増加がそれを物語っている。
116打席に立った昨季の四球数は5つだけだったが、今季はすでに8つを数える(87打席/5月5日時点)。規定打席には到達していないものの、打率.289で、出塁率.372という成績。ボール球を見極め、甘い球を的確に打つ“好球必打”を体現し、リードオフマンとしての役割を十分に果たしていることがわかる。
「積極性」と「我慢」という相反する精神状態を両立させるには、打席での高い集中力が欠かせない。桑原が過去に増して集中力を高めることができているのは、ある先輩選手からのアドバイスがあったからだ。
熾烈な外野戦争へ飛び込む!
「シーズンが始まる前、柳田(殖生)さんに言われたんです。スタメンで出る時も、一打席に全てを懸ける代打と同じような気持ちでやったらどうかって。そう言っていただいて、すごく助かりました」
代打での出場機会が多い柳田の言葉は、腹にすとんと落ちた。
「自分、1打席目がダメだったら2打席目も引きずってしまったりしてたんですけど、今年は去年と違って引きずらなくなりました。1打席1打席っていう気持ちでやっていると、気持ちが持続するというか。そういう考え方が自分自身の性格にも合っているんだと思います」
4月30日の阪神戦、スタメン落ちした桑原に代わって1番センターに入ったのは、左肩の脱臼から復帰した20歳の関根大気だった。桑原にとってはライバルとなる存在である。
するとその翌日、6番センターで先発出場した桑原は、3つの四球を選んで、今季初盗塁も決めた。桑原のアピールはまだまだ続く。
チームは借金が膨らみ、さらに頼みの筒香嘉智が右腹斜筋の肉離れで登録抹消と、正念場に立たされている。そんな中、桑原を筆頭に、互いに刺激し合いながら定位置獲得を争う若手の外野手たち。そこに梶谷隆幸が復帰し、競争はこれからさらに熾烈を極める。
彼らの必死のプレーが、これからの逆襲に向けての大きなエネルギーとなることを期待したい。