コラム 2016.11.28. 20:00

【白球つれづれ】巨人復活の鍵は高橋監督にあり

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来季の新ユニホームに身を包む巨人の高橋監督(左から2人目)ら=23日、東京ドーム(C)KYODO NEWS IMAGES

白球つれづれ~第31回・高橋由伸~


 勝負の世界は勝者と敗者しか存在しない。前者は我が世の春を謳歌し、後者は黙して語らず。ただひたすら雪辱の時を待つ。


球界をリードしてきた巨人


 名門・巨人軍に元気がない。ペナントレースで広島の後塵を拝したのだから当たり前のことかも知れないが、それにしてもマスコミの露出の少なさはかつての黄金期を知る者として哀れさえ感じてしまう。

今オフのスポーツ紙をめくってみる。日本ハム・大谷翔平の活字は毎日のように踊っている。だがその次はゴルフの松山英樹に、テニスの錦織圭やフィギュアの羽生結弦らが続く。要は世界を相手に戦うアスリートへの関心が高く、日本の中のナンバーツーやスリーのチームでは注目度が格段に低くなると言うことだ。

 かつての巨人は常にオフの主役も担ってきた。江川卓や元木大介に菅野智之らはドラフト時に野球界を騒がせ、FAの争奪戦でも落合博満、清原和博、小笠原道大、杉内俊哉らパ・リーグの主力を根こそぎ獲得して話題の中心にいた。

良いか悪いかは別にして「ナベツネ」こと読売のドン・渡邊恒雄の個性の下で「強くなければ巨人じゃない」という思想に貫かれていた。ところが今季の戦いの跡を振り返ると未曽有の苦しみの中に埋没したとしか言いようがない。


問われる発信力


 前監督の原辰徳の勇退に伴い新たな指揮官に就任したのが高橋由伸。本人はまだ現役続行に色気を見せていたのに突如の指名では準備不足は明らかだった。そこへ混乱に輪をかけたのが野球賭博事件で開幕前から野球どころではなくなってしまった。

「一新」の合言葉の下でスタートしたシーズンも若返り策は肝心の若手の伸び悩みで空回り。唯一の明るい話題は首位打者を獲得した坂本勇人の成長くらいか。今季のセ・リーグベストナインの顔ぶれを見ても巨人から選出されたのはその坂本に三塁手部門の村田修一だけ、スター不在は深刻だ。

 こんな時だからこそ、監督の「発信力」が必要になる。高橋は現役時代からスマートな優等生のイメージが強い。指揮官となってもテレビの画面から伝わってくるのは、喜怒哀楽を表に出すことなくひたすら耐える表情が多かった。

インタビューでも極力、チームに波風を立てないよう無難な言葉を選んでいた。バントを失敗した選手がいても名指しで叱ることはない。シーズン終盤の大切なゲームでことごとく抑えに失敗した守護神の沢村拓一に対してファンが罵声を浴びせても務めて冷静に振り返る。「失敗が痛いことは当然のこと、本人がその痛みを感じて次につなげてくれれば」という調子だ。

新人監督として遠慮があったことは間違いない。ベテランの阿部慎之助は「それまで“由伸さん"と言って接していたのが急に監督とは呼びづらかった」と立ち位置の難しさを語ったことがある。だが良き兄貴と非情の指揮官は両立しない。


高橋“監督”に求められるもの


 監督の重要な務めの中にマスコミへのサービスがある。チームの重要な構想の一部だけでも記者の前で漏らす。期待の若手の名を挙げてレギュラーもあり得るぞとアドバルーンを上げる。大谷クラスの個人で騒がれる選手ならともかく、監督の一言によって話題を提供することでテレビや新聞の扱いは変わってくる。

巨人の歴代監督を見れば長嶋茂雄はその一挙手一投足が絵になり見出しになった。王貞治には「世界の王」の圧倒的な存在感があった。原辰徳にも長嶋に通じるユニークな語録と「仕掛ける野球」の魅力があった。

他球団に目を転じても西武時代の広岡達朗やヤクルト、楽天らの野村克也らも選手以上の露出度を誇った。中日時代の星野仙一は乱闘からベンチの椅子を蹴り飛ばすなど「武闘派」のイメージが強かったが、半分は計算づくの演技だったという説もある。

 先達ほどの個性はなくとも監督2年目を迎える高橋にはこれが自らの求める野球だという方向性を明確にすることが今季以上に求められる。加えて、無表情と無機質なコメントを排除して欲しい。青年監督らしい溌剌さをファンも熱望している。

勝てばすべてが解決するほど今の巨人の病は軽くない。コップの中の水もかき混ぜれば波紋を呼ぶ。だが一方でチーム内に波風が立とうともアクションを起こさなければ何も生まれない。高橋由伸の変身こそが巨人再建の第一歩となるはずだ。


文=荒川和夫(あらかわかずお)

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