白球つれづれ~第35回・平成のON~
来年のことを語っても鬼に笑われることのない年の瀬になった。2016年の野球界は日本ハムの日本一でフィナーレを迎えたが、来季もまたこの球団が主役であることは間違いない。
グラウンド上の戦いは置いておくにしても日米を股にかけた大谷翔平の争奪戦がヒートアップ。こちらばかりに目を奪われがちだが実はもう一つ、重要な案件も控えている。
主砲の中田翔が来オフには国内FA権を取得、彼の決断次第ではこちらも球界を揺るがす大騒動になることは確実だ。
阪神調査の報も
折しも、26日付の「スポーツ報知」が「金本阪神 中田調査」の見出しで大々的に取り上げている。要点をかいつまんで紹介すると以下のような内容になる。
【1】監督の金本知憲とは同じ広島出身であり2010年オフには同市内のトレーニングジムで合同自主トレを行った
【2】2007年のドラフトでは高校生1巡目で阪神指名も、くじで日本ハムに敗れた。10年越しの恋人
【3】大阪桐蔭時代は甲子園で活躍、地元の熱烈ファンは多い
【4】今オフにはオリックスから糸井嘉男、新外国人としてキャンベルらを獲得したが四番を託せる大砲は不在。
もちろん、現時点から獲得と騒ぎ立てればタンパリング(事前接触)の恐れもあるため「中田への獲得調査を行うことがわかった」と報じている。
一線を画す日本ハム
中田クラスの大物になれば、阪神に限らず多くの球団が現時点から興味は持っているはず。それでも巨額の資金が必要となる「マネーゲーム」なら撤退するチームも出てくるため、現実には巨人、中日、ソフトバンク、楽天あたりまでが競合する可能性はある。
だがそれ以前にチームの大看板である大谷と中田を同時に失うようなことを日本ハムが認めるのだろうか? ある球団関係者は「普通ならあり得ないが日ハムさんの場合はゼロじゃない」と占う。確かに日本ハムの球団運営は他球団と一線を画している。
日本一を受けて行われた契約更改。2億円から一挙倍増も予想された大谷は7000万円増の2億7000万円(金額は推定、以下同じ)。これに対して中田も3500万円増の2億8000万円と抑えられた感は否めない。
個人タイトルはなかったが投打二刀流の活躍でシーズンMVPに飛び切りの輝きを見せた大谷。夏場に不振にあえいだものの、この3年間で2度の打点王と侍ジャパンの四番も任される中田。ベースボールキングでは今季から12球団全選手の年俸ランキングを掲載しているが、現時点で中田は15位、大谷は16位に位置している。
ちなみにトップは金子千尋(オリックス)の5億円。以下、中村剛也(西武)4億1千万円、さらに和田毅、摂津正、松田宣浩のソフトバンクトリオと鳥谷敬(阪神)が4億円で続く。
また2年連続トリプルスリーの山田哲人(ヤクルト)は1億3000万円増の3億5千万円、セの本塁打、打点の二冠王に耀いた筒香嘉智(DeNA)に至っては一気に2億円アップの3億円では中田の心中も穏やかではないだろう。
ONの今後は?!
日本ハムの場合は一般的な投手、打撃成績だけでなく勝利への貢献ポイントから有効打などを数値化したメジャー流のきめ細かな査定法を導入しているためマイナス部分のチェックも厳しい。
加えて西川遥輝、中島卓也、谷元圭介らが新たに1億円プレーヤーの仲間入りを果たすなど全体の底上げが必要だった事情もある。しかし、過去のFA選手の例を引くまでもなくプロの評価とは金額で弾き出される。
仮に来季、中田が本塁打と打点の二冠でも獲得したとき、筒香並みに2億円アップを要求したらどうなるか?金満球団なら年俸5億の複数年契約を用意してもおかしくない。
絶対的なエースだったダルビッシュ有が海を渡り、来オフにも大谷のメジャー挑戦を容認。球団経営を圧迫しないよう過去にも大物を放出してきた日本ハム商法にあって中田を今後どう遇していくのか?「平成のON」の1年後の去就は今から目が離せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)