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子どものために、野球のために、私たちは何ができるのか? 中島大輔「野球消滅」

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中島大輔氏は2017年、『中南米野球はなぜ強いのか』がミズノスポーツライター賞の優秀賞を受賞しているが、この本ではドミニカ共和国などカリブ諸国の野球事情を描いているが、同時にベネズエラの野球が衰退した背景に同国の政治社会情勢が変化したことがあることもレポートしている。つまり「野球、スポーツ」だけではなく、その周辺の社会情勢にも問題意識がある、視野の広いライターなのだ。

野球消滅」は、その「目」で、今の日本野球を見ると、何が見えてくるのか? を追求した本と言えるだろう。

プロ野球は2500万人以上の観客動員を誇り、大繁栄しているように見えるが、どの球場も盛況だ。しかしその観客の多くは熱心なリピーターであり、実質的な観客数はその数分の一に留まっている。しかもその観客は「プロ野球がある地域」に集中している。
その一方で、子どもたちが野球に触れる機会が減少している。地上波テレビでの「野球中継」が激減する中で、「野球」を知らない子どもたちが増えている。このこともあって、子供の野球競技人口は減り続けている。また「野球あそび」が消滅したことで、将来の野球ファンになるような子供も減っている。

また、少年野球人口は激減している。野球嫌いを生み出す指導者、長時間練習、そして重たい親への負担が、「野球離れ」を加速させる。
昔とは異なり、水泳やサッカーなど「スポーツの習い事」の選択肢は数多くある。そうしたスポーツは、未就学児の段階から子どもたちを囲い込むが、野球はこれまで未就学児を相手にしてこなかった。そのために、子どもたちを取り込むことが出来ていない。
さらに、公園での「ボール遊び」が全国的に禁止されたことで「野球あそび」は、子供の生活から消えてしまった。

日本の野球界は閉鎖的で、内向きの「野球村」になろうとしている。社会の動きから立ち遅れている部分も見えてきた。

こうした状況の中で、中島大輔氏は「野球村のアップデート」が必要だと訴える。
まず、過度で長時間の練習をやめて「休むこと」の意義を理解すること。休んでいる間に、子供は成長するし、怪我のリスクも軽減される。
そして「甲子園至上主義」をやめて、もっと長い目で子供たちの成長を見守ること。
さらに目先の白星を負う「勝利至上主義」をやめて、スポーツマンシップを正しく理解すること。

本書では野球指導者の荻野忠寛氏のスポーツパーソンシップの考え方を紹介している。
「感情の抑制」
「相手に対する思いやり」
「フェアプレー」

著者は、今後、野球界では「自然淘汰」が起きるだろうと予測している。一つの団体としてまとまることのできない野球界だが、そんな中で、今の社会に適応した「未来志向」へとアップデートした団体は生き残っていくだろうが、古い体質に固執している団体は淘汰されていく。

選手、野球指導者、保護者は、自分たちが日々接している野球界が、どのようになっているかを知るべきだろう。
そして日々の活動を通して「子どもの未来、野球の未来」のために、何をすべきか、何ができるかを考えるべきだ。

本書は、大事な気付きを与えてくれる一冊だといえるだろう。(広尾晃)







「野球消滅」
・中島大輔
・新潮社
・821円




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