高校BIG3が全滅...
熱戦が繰り広げられている夏の甲子園も、大会11日目が終了。あっという間にベスト8が出揃った。
そんな中で話題となっているのが、“高校BIG3”として大会前から注目を集めていた好投手たちの相次ぐ敗退。横浜・藤平尚真、履正社・寺島成輝、そして花咲徳栄の高橋昂也...。この3人のうち、ベスト8に残った投手は一人もいない。
特に高校生投手が大豊作と言われる今年。その中でもより熱い視線を浴び、大きな注目を集めていた3人だけに、早すぎる敗退を残念がるファンも多かった。
また、ファンにモヤモヤを残す要因となっているのが、3人の“負け方”にある。
共通した3人の“負け方”
2回戦で履正社に敗れた横浜。横浜を破って勝ち上がった3回戦で常総学院に敗れた履正社。そして同じ3回戦で作新学院に敗れた花咲徳栄――。この3校の敗れた試合を見てみると、ある共通点が浮かび上がってくる。
それが、“BIG3”に挙げられるような大エースが「先発をしなかった」という点。奇しくも3チームともエースの登場前に打ち込まれ、2回までに5失点。序盤の失点が響き、そのまま敗れるというパターンで敗退しているのだ。
「“エース温存”で負けた」。そう思うファンも少なくないはずだ。なぜ一発勝負のトーナメントで一番いい投手を使わないのか、と...。
しかし、この3人の“負け方”というのは、近年の高校球界に見受けられる「新たな流れ」を象徴するような負け方だったのかもしれない。
1人で勝てる時代ではない?
これまでの甲子園を思い返してみると、ヒーローと言えば背番号「1」を背負うエースの印象がどうしても強い。
近年では早稲田実の斎藤佑樹(現日本ハム)や、横浜の松坂大輔(現ソフトバンク)などがその筆頭。延長戦を投げ抜いてなお連投に次ぐ連投、そして最後には優勝を掴む。この2人以外にも、1人でチームを背負う大黒柱が讃えられてきた。
しかし、近年は高校球界でも「先発・完投当たり前」という風潮はなくなりつつある。
今大会ここまで勝ち残った8校を見ても、1人の投手だけで勝ち上がってきたチームは3校のみ。ちなみにその3校も2回戦からの登場であり、1回戦から3試合を戦ったチームで全試合を1人で投げ切った投手というのはいない。
1人のスーパーエースよりも、複数の好投手。これが今の高校球界におけるトレンドになりつつあるのだ。
“温存”ではなく“最善策”である
今ではプロ野球に“勝利の方程式”がすっかり馴染んだように、そういった戦いが高校球界に浸透する日もそう遠くないかもしれない。
背景にあるのが、甲子園の過密日程。勝ち上がれば上がるほど厳しくなり、3回戦から準々決勝が連戦となるチームも...。おまけにこの酷暑で炎天下の中でのプレーとなれば、投手1人で勝ち抜くという戦法が非現実的であるということは明白である。
今回の横浜や履正社、花咲徳栄も、決して“エース温存”で負けたわけではない。エースを使わなかったのは、厳しい戦いを勝ち抜いて頂点を極めるための逆算をした結果であり、どこかでエースを休ませる必要があったためだ。
寺島に代わって先発した山口裕次郎は、大阪府大会では寺島と同じ4試合に先発。2枚看板として寺島とともに甲子園出場に貢献した男であり、信頼も厚かった。高橋昂也に代わって先発した花咲徳栄の綱脇慧も、来年のチームを背負う投手として大きな期待を受けている投手である。
ともに指揮官が自信を持ってオーダー表に書き込んだ名前であり、この決断こそ優勝を見据えた戦いの中での最善の一手だったのだ。
甲子園がゴールではない
もっと言えば、彼らはまだ若い。17、8歳の彼らにとって、甲子園はゴールではない。この先にはきっと、輝かしい未来が待っているのだ。
「肩は消耗品」という考え方は近年日本でも定着して来ているが、10代での投球過多が選手生命に影響を及ぼしてしまうことも多分にある。そういった従来の日本的でない思想や風潮も、分業化への流れを推し進めているといえるだろう。
“BIG3”とまで言われている彼らは、すでにその実力は証明済みであり、高い評価も受けている。そんな彼らが1人で無理をする必要もなく、将来の日本を背負うような逸材を“守りながら戦う”ということも、今の監督に求められる資質のひとつと言える。
戦い方は変わってしまったとしても、ヒーローがいなくなることはない。毎年必ずドラマが生まれる大甲子園は、これからも人々の心を揺さぶり、魅了していくことだろう。
今年の甲子園も残すところ準々決勝と準決勝、そして決勝の3日間。最後まで熱い戦いに期待したい。