引退年の“代打・由伸”は打率.395、出塁率.489!
巨人が国内FA権を行使した山口俊(DeNA)と森福允彦(ソフトバンク)の両獲りに成功した。週明けに入団会見が行われる予定で、覇権奪回へ着々と戦力補強を進めている。
今季はリーグ2位を確保し10年連続のCS進出を果たしたが、優勝した広島に17.5ゲーム差をつけられた。弱点だった先発投手の駒不足、勝ちパターンの再構築へピンポイント補強を施した今オフだが、野手陣に目を移すとドラフト、トレード以外では目立った補強はない。
一方で、走塁のスペシャリストだった鈴木尚広が今季限りでの引退を発表した。昨オフ、指導者へ“電撃転身”した高橋由伸監督、井端弘和内野守備走塁コーチも含めると、ここ2年で走・攻・守の切り札が立て続けに現役を退いたことになる。
巨人ファンにとって、今年ほどスペシャリスト不在を痛感したシーズンもないだろう。とりわけ2016年の代打打率は12球団ワーストの.171。過去のチーム成績と比較しても、15年の.243、14年の.244を大きく下回っており、今季の起用上位だった堂上剛裕、脇谷亮太がともに打率1割台に沈むなど迫力を欠いた。
高橋監督は引退した2015年に、打率.395、出塁率.489という驚異的な成績を残した。井端コーチも少ない起用回数ながら打率.250、出塁率.375を記録し、両ベテランは球場の雰囲気を変えられる存在でもあった。
代打は経験も必要な役割であり、来季は脇谷、相川亮二らベテラン選手の奮起に期待したいところ。また、岡本和真ら若手がレギュラーを掴むことができれば、村田修一、阿部慎之助あたりを代打に回すことができる。両選手ともすでに30代後半。チームの将来を見据えても、若手が実力でポジションを掴み、ベテランに勝負どころを託す形が理想だ。
鈴木尚広は盗塁成功率100%で引退
鈴木の後釜にも注目だ。CSでは痛恨のけん制死があったが、レギュラーシーズンでは12年連続2ケタ盗塁(10盗塁)と自身初の成功率100%を記録した。
最後まで衰えを見せなかった韋駄天は、通算成功率(200盗塁以上)でも歴代1位の.829をマークし、相手投手にプレッシャーを与え続けた。それでも「僕の仕事は一発勝負。心・技・体のどれかひとつが欠けてしまえば勝負はできない」と、潔くユニフォームを脱ぐ決断を下した。
片岡治大、立岡宗一郎、橋本到らはレギュラー奪取を目指すシーズンとなるが、ベンチスタートの際は代走要因としても機能してほしいところ。成功率という視点では、1年目から.833(6-5)をマークした重信慎之介。11年に成功率.800(35-28)で盗塁王に輝いた藤村大介。少ない企図数ながらここ2シーズンは盗塁失敗がない松本哲也あたりにも期待したい。足自慢たちの共通課題は打撃面。弱点を補いレギュラー定着を目指す中で、誰が鈴木の後継者になるか注目だ。
守備固めでは加入2年目だった吉川大幾が、自己最多の50試合に出場。こちらも打撃面は低調だったが、二塁、三塁、遊撃を守れるユーティリティー性を発揮し存在感を示した。ただし今秋のドラフトでは、即戦力候補の吉川尚輝(中京学院大)を1位で獲得し、高卒4年目の辻東倫は一軍での出番を大幅に増やした。この3選手は二遊間を本職としタイプ的にも被る。ライバル同士ハイレベルな競争を繰り広げ、ひとりでも多く飛躍のシーズンにしてほしいところだ。
原政権では試合終盤、代走・鈴木が盗塁を決め、代打・高橋が殊勲打をマーク。そして井端が守備のクローザーとして登場する試合がいくつもあった。各ポジションにスペシャリストを擁し、相手に見えないプレッシャーを与えていたかつての巨人。覇権奪回へ、新時代の“切り札育成”にも期待したい。