デメリットだけではない鳥谷の流出
各球団が来季を見据えた補強に奔走するオフシーズン。メディアを賑わせている一人が中島裕之(前アスレチックス2A)だが、古巣の西武、中日のほか、獲得に名乗りを挙げているのが阪神だ。
中島が欲しいのは、鳥谷敬がメジャー移籍を念頭に海外FA権を行使したことに尽きる。チームを象徴する大黒柱の流出となれば中島獲得に動くのも無理はない。
しかし、鳥谷の退団が悪いことばかりとは言い切れない。来年には34歳を迎える鳥谷。勝負強い打撃は相変わらずだが、近年は徐々に守備範囲が狭まっており、堅実ながらも守備力の衰えを感じる場面もしばしば。もし鳥谷が退団することになれば、大和の内野再コンバートのほか、次世代を担う若手へのチャンスも芽生えてくる。
日本一となった1985年の遊撃手であり、来季はヘッドコーチに就任する平田勝男二軍監督に英才教育を施されてきた北條史也、強打が売りの陽川尚将らによるポスト鳥谷争いはチーム力の底上げにつながるだろう。
鳥谷の退団はチームにとってもファンにとっても大きな痛手には違いないが、仮に中島獲得に失敗したとしても、将来を見据えた世代交代という意味ではメリットが確実にある。
また、阪神が獲得を目指すのは中島だけではない。今オフ、国内FAの目玉である金子千尋(オリックス)のポスティングでのメジャー移籍をオリックスが認めなければ、国内球団による争奪戦に参戦するという。
もちろん、球界ナンバーワンといわれる90勝右腕を獲得できれば大きな戦力となる。しかし、岩田稔が復活した今季、ランディ・メッセンジャー、能見篤史、藤浪晋太郎らで形成する先発陣はすでに12球団でも上位。事実、今季の先発防御率は、オリックス、ソフトバンク、巨人に次ぐ12球団4位の数字を残している。となれば、現状のままでも十分にシーズンを戦い抜く力はあると見ていい。
衰え隠せぬベテラン救援陣に引導渡す若手が現れるか?
気になるのは、中島、金子をめぐる報道が相次ぐ一方で、中継ぎ陣の補強に関するニュースがまったく出てこない点だ。中継ぎ陣こそ、阪神の本当のウィークポイントのはずである。事実、今季の救援防御率は4.20と、ヤクルトに次ぐ12球団ワースト2位なのだ。
2013年に大車輪の働きをした福原忍、安藤優也、加藤康介の衰えは、今季、はっきりと見て取れた。3人の防御率は2013年の1.84に対し、2014年は4.08と急激に悪化。そろって30代後半の3人。成績下降の原因は明らかに年齢によるものだろう。
とはいえ、彼らに代わる投手がいるかといえばそれもまた微妙なところ。シーズン終盤、思い切りのいい直球を投げ込み虎党のハートをつかんだ松田遼馬には期待できるが、故障持ちゆえにシーズンを通して成績を残せるかといえばそれはまた未知数。今季途中で再び中継ぎに転向した榎田大樹も不安定な投球を繰り返し、かつての輝きを失ったままだ。
もちろん、そんなことは球団も承知のはずだし、何らかの補強を考えていることだろう。だが、それがかなわなかった場合には現有戦力の育成から新たなセットアッパーを作り出すしかない。思い返してみれば、2003、2005年にリーグ優勝を果たした強い阪神の象徴といえば、“JFK”と呼ばれ恐れられた強力な救援陣にあった。それも昔の話……その一角を担った久保田智之が今季限りで引退し、藤川球児は海の向こうにいる。
今季のオリックスがそうであったように、後ろがしっかりしているチームは、先発陣、打撃陣に多少難があっても大きな連敗もせずに、上位に食い込んでくる力があることは間違いない。かつてJFKのリーダーとしてリリーフ陣をけん引し、現在は駐米スカウトを務めるジェフ・ウィリアムスを来春キャンプに臨時コーチとして招くプランがあるという。「JFKでは一番絶望感がある」と他球団ファンに言わしめたウィリアムスから学び、新たなるJFKとなる若手投手の出現に期待したいところだが、果たして阪神の来季の中継ぎ陣はどういう顔ぶれになるのだろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)