コラム 2014.12.15. 12:00

日米で論争が起きた安楽智大の772球 “球数”に関する日米の違いを再考する

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日米を巻き込む議論となった 安楽智大の772球


 日本とアメリカの野球で大きな違いのひとつに投手の球数がある。

 アメリカ・MLBでは先発投手を100球前後で交代させ、中4日のローテーションで回すのが基本的なスタイルだ。一方、日本では投手の分業制が進み、以前ほど先発投手が球数を投げなくなった。それでもまだ、120球以上や140球くらいを記録することがある。

 プロ以上に日米間に差があるのはアマチュア野球、とくに学生野球における球数だろう。

 昨年のセンバツで、済美高校の2年生エース安楽智大(楽天ドラフト1位)が計5戦で772球を投げ、準々決勝からは3連投になったこともあり話題となった。日本だけにとどまらず、アメリカのスポーツ専門局ESPNが取材にくるほど、球数に関する議論は過熱した。

 安楽の一件以降、一大会での連戦や球数は高校野球における問題のひとつになっている。様々な声を受け、日本高野連は来年度から春季都道府県大会・地区ブロック大会に限り、試験的にタイブレーク方式の導入を決めた。タイブレークの導入が、選手(特に投手)の健康状態にどれほど好影響を与えるかこそわからないが、日本の高校野球もひとつの分岐点に来ているのかもしれない。

 ところで、球数の議論で必ずといっていいほど出てくるのが「アメリカではこういったことは絶対にない!」という話。確かに、アメリカの野球では異常なまでに投手の球数に神経を遣う。“投手の肩は消耗品である”という考えが、日本以上に浸透しているからだ。


アメリカでもあった驚異的な球数 14イニング194球の熱投!


 しかし、今年の5月、アメリカでこんな話があった。

 ワシントン州のロチェスター高校に通うディラン・フォスネート君は、1試合で14イニング194球を投げた。そのニュースを聞いたタンパベイ・レイズのエース、デイビット・プライスがフォスネート君のツイッターにこんな言葉を送った。

 「君は怪物だね。でも、もうちょっと賢くなろうよ」。ハッシュタグには「君のチームの監督はクビにすべきだ」とつけて。

 少々過激な物言いだったが、フォスネート君は冷静に反論した。

 「僕はチームが勝つために頑張っただけで、僕にとって今の監督以外は考えられないよ」。そして、こうも付け加えた。
 「ある人は、すごいと思うだろうし、またある人は、考えられないと思うだろうけど、僕にとってはいい思い出だよ」

 アメリカの高校野球では、投球イニングや球数の制限を設けているところも多く、フォスネート君が所属している地域では「1試合で4イニング以上投げた投手は、次の登板まで中2日以上空けなければならない」というルールがある。1試合での球数に関するルールがなかったために起こった出来事といえるだろう。

 チームが勝つために頑張ったといった言葉は日本の高校生もよく使うが、球数に敏感なアメリカ人から、こういった言葉が出てくるとは驚いた。

 球数に関する議論は、これといった正解を導くことが難しい。フォスネート君の話は確かにレアケースだろうが、アメリカでもとんでもない球数を投げる投手はいるのだ。今後、この球数における日米の議論がどう発展していくのか答えは見えない状況だが、ひとつの事例として、頭の片隅に置いておきたい。

文=京都純典(みやこ・すみのり)
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