新井が広島優勝のキーマンになる
今季から古巣・広島へ復帰した新井貴浩が好調だ。2月14日、紅白戦に初出場すると、野村祐輔から第1打席でいきなり本塁打。目の覚めるような弾丸ライナーはあっという間に左翼フェンスを越えた。続く第2打席にはあわや2打席連続アーチかと思わせる強烈な打球を放ち左翼フェンス直撃二塁打となった。
昨季の推定年俸2億円から2000万円への大減俸をのんでの古巣復帰。昨季、ゴメス(阪神)らにポジションを奪われた新井が求めているのは出場機会だ。阪神への移籍の経緯もあり、広島ファンの間では「まだ許していない」「広島なら試合に出られると思っているのか」と厳しい声も少なくない。
もちろん実力社会のプロ野球では成績で見返すしかないだろう。ただ、冷静に判断すべきことは、新井復帰がチームにもたらすメリットは非常に大きいということである。今季の広島において投手のキーマンが黒田博樹なら、野手のキーマンは新井という見方ができる。
数字に表れない部分でも心強い存在
一時の“暗黒時代”を抜け出し優勝候補にも挙げられるようになった広島だが、2シーズン連続で3位どまり。その後のCSも結局は勝ち切れなかった。その要因の一つは選手層の薄さにある。
昨季、本塁打王に輝いた4番のエルドレッドだが、好不調の波が非常に大きく、シーズン後半は極度の不振に陥った。8月の月間打率を見れば、なんと.053である。しかし、昨季までの広島にはエルドレッドに代わる4番タイプの打者がいなかった。
今季は新外国人グスマンが加入したが、あくまで中距離ヒッターという評価だ。しかも新加入の選手ということで、どれだけ日本の野球に適応できるかは現時点では分からない。それこそ、エルドレッドがスランプに陥り、グスマンが期待ほどの働きを見せられなかった場合には、メンバー表にクリーンアップを記入するにも首脳陣が頭を悩ませることとなるだろう。
その点、実績十分の新井ならばある程度の成績は計算できる。昨季は阪神のチーム構想から外れただけであり、今でも打席に立つ機会さえあれば、十分に中軸を担う力はあるはずだ。
また、交流戦ではDHに使えるというメリットもある。昨季、広島の交流戦成績は、優勝した巨人に7ゲーム差をつけられての12球団最下位に終わった。レギュラーシーズンでは巨人に7.5ゲーム差だったことを考えれば、交流戦の失速がそのままシーズン成績に直結したということだ。交流戦の飛躍こそ、広島優勝の鍵だといえる。
昨季、交流戦中のDHは主にキラ(退団)が努めたが、6月18日、19日の楽天戦ではそれまで1軍出場経験のない高橋大樹が起用され、6打数無安打に終わった。DHに新井を据えれば、相手投手に与えるプレッシャーは格段に違ってくるだろう。
新井には経験という武器もある。優勝経験こそないものの、阪神では4度のCS出場を経験。昨季は主力ではないがCSを勝ち抜き日本シリーズ出場も果たした。若手主体の広島というチームに足りないものの一つは“経験”だ。CS、日本シリーズといった大舞台で、新井の経験は必ず生きてくるに違いない。
先輩・後輩を問わず誰からも愛されるキャラクターでもあり、若い選手からアドバイスを求められれば、自らの経験から多くの助言を与えることもできるだろう。広島のチームリーダーはあくまでも丸佳浩や菊池涼介ではあるが、陰でチームを支えることができるのは新井のようなベテランに限る。戦力としてはもちろん、数字には表れない部分で心強い存在となるはずである。
もちろん、その新井の加入で、内野の選手層は一気に厚みを増した。昨季日本一のソフトバンクの例を挙げるまでもなく、選手層の厚さは常勝チームの条件だ。もちろん、新井も控えや代打稼業に甘んじるつもりはないだろう。新井がポジションを争う一塁、三塁には、先述の外国人二人のほか、堂林翔太、梵英心、小窪哲也らがひしめく。
その厚い選手層の中でレギュラーをつかみ、かつ広島を優勝に導く。それこそが広島ファンへの本当の恩返しとなり、新井がもう一度ファンの心をつかむ唯一の方法だろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)