粗さも目立った昨季の上位打線
広島に復帰した黒田博樹がスポーツメディアを連日にぎわせているのに対し、メジャーからの復帰組の中ではメディア露出が少ない日本ハムの田中賢介。もともと派手な選手ではない田中ではあるが、その裏返しでもある安定感こそが持ち味だ。
オープン戦でも「1日1本」といった具合にコンスタントにヒットを重ね、打率.311を記録。メジャーの舞台では目立った活躍はできなかったが、その安定感は健在と見ていいだろう。
もちろん、シーズンでも3割を残せるかどうかは分からない。過去にメジャーに挑戦した多くの野手は長打力もウリだった選手たち。アメリカの野球に適応するために打撃を変化させ、その副作用からかNPBに復帰したシーズンには打撃を崩し期待された数字を残せなかった選手が目立つ。
ただ、アベレージヒッタータイプの西岡剛(阪神)は復帰1年目に打率.290を記録。同タイプの田中の場合、ブランクはあってもメジャー挑戦前と同様の活躍ができると見る声もある。
田中がシーズンを通して出場することでチームにもたらすメリットは多い。昨季の日本ハムは主に1〜3番打者を務めた西川遥輝、中島卓也、陽岱鋼の3人全員が20盗塁以上を記録。先頭打者から足でかき回す戦略は確かに魅力的ではあった。
しかし、その半面、西川の139三振をはじめ、3人全員が90三振以上を記録。三振率(※打数を三振数で割ったもの:何打数で1つ三振を喫するかを表す)はそれぞれ4前後と粗さも目立っていた。ちなみに、田中のNPB通算での三振率は6.24である。
また、西川と中島の場合、主力としてまだ1シーズン活躍したに過ぎず、今季も同様の働きができるかも不透明だ。その点、経験値が高く、毎年安定した数字を残してきた田中の場合はある程度の成績が計算が立つ。
ベテラン不在のチームで貴重なお目付け役に
今季は田中が2番打者で出場することが見込まれている。派手な長打がない代わりに、犠打はもちろん、エンドラン、セーフティーバントなどさまざまな戦術をこなせる器用さがあり、選球眼もいい。もちろん足もある。田中の復帰により、昨季12球団最多盗塁を誇る機動力に、より高い精度が加わる。
さらに、DH制のパ・リーグでは、下位打線がチャンスを作った場合にはポイントゲッターとしての役割も期待されるのが2番打者。状況によりバッティングを変えられる田中はまさにフィットする選手である。
また、田中が加わるメリットは戦術面に限られたことではない。稲葉篤紀、金子誠が引退し、大引啓次、小谷野栄一が移籍したため、ただでさえ若手主体の日本ハムには、“お目付け役”といえるベテランが不在となってしまった。その点、例えば常に全力疾走を怠らない姿勢など、田中はあらゆる点で若手にとって最良の手本となるに違いない。
全国区のスター選手のような派手さには欠けるが、戦術面でも精神的な部分でもチームに安定感をもたらすことができる田中が、3年ぶりのリーグ優勝を目指すチームにとって大きな力となる。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)