コラム 2015.10.14. 11:30

“ひとつの夢”を果たしたイチローが見据える来季

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シーズン最終戦でマウンドに上がったマーリンズのイチロー[Getty Images]

メジャーでは珍しくない野手の登板


 マイアミ・マーリンズのイチローが4日、レギュラーシーズン最終戦のフィラデルフィア・フィリーズ戦で8回にマウンドに立ち大きな話題となった。1回を投げ、打者5人に対し18球を投げ、2安打1失点。最速143キロの速球にスライダーやチェンジアップも織り交ぜ、愛工大名電高時代にエースだった片鱗を見せた。

 41歳348日での登板は、同一試合で野手と投手の両方での出場をこなした選手としてはメジャー史上最年長とも言われている。

 日本よりも日程がタイトなメジャーでは、リリーフ投手の登板過多を防ぐ目的もあり、大量リードを許した場面で野手が登板することは珍しいことではない。6月16日のワシントン・ナショナルズとタンパベイ・レイズの試合では、大量リードを許したレイズが8回に野手のエルモア、9回にも内野手のフランクリンをマウンドに上げた。25年ぶりに1試合でふたりの野手がマウンドに上がるという珍事だった。

 一方で、最悪の事態を招いたケースもある。1993年5月、テキサス・レンジャーズとボストン・レッドソックスの試合で、11点のリードを許したレンジャーズがメジャー屈指のスター選手だったホセ・カンセコを8回に登板させた。ファンサービスの一環でもあったが、カンセコは3失点を喫した上に、ヒジを故障してしまったのだ。結局、トミー・ジョン手術をうけることになってしまったのである。


心の底から野球を楽しんでいるように見えた今季のイチロー


 今回のイチローのケースは、8回で4点と決して大量ビハインドだったわけではなく、ベンチに控え投手が4人残っていたことを考えれば、野手登板の場面には当てはまらない。マーリンズのジェニングス監督によれば1ヵ月前からイチローと登板の機会を探っていたそうで、シーズン最終戦でプレーオフの可能性もなかったことから、イチローの夢が実現したと考えられる。

 登板に関し、否定的な意見も見られたが、マーリンズや対戦相手のフィリーズベンチの表情を見る限り、少なくともグラウンド上の選手たちは「あのイチローが投げている!」と登板を楽しんでいたようだ。

 メジャー15年目を迎えたイチローの今季は第4外野手として153試合に出場し、打率は自己ワーストの.229に終わった。400打席以上立った選手はメジャーで210人いたが、そのなかで打率は193位、出塁率と長打率を足したOPSは.561でメジャーワーストだった。この数字だけを見れば、さすがのイチローも衰えを隠せないが、若い選手が多いマーリンズにおいてチームリーダーとしてイチローが与える影響は大きい。

 昨季までのイチローは、何か目に見えない重たいものを背負っていたようで、見ている側も息苦しさを感じることもあったが、今季はプレーすることを心の底から楽しんでいるようだった。イチロー自身も「素晴らしいチームメートに支えられてきたというのは一番大きい」と語ったように、そのキャリアのなかでも意義あるシーズンとなったのではないか。

 そんなイチローは、シーズン終了2日後という異例のスピードでマーリンズと来季の契約を結んだ。今季と同じ200万ドル(約2億4千万円)プラス出来高で、2017年はオプション(球団に選択権)200万ドルという契約は、第4外野手としては破格である。マーリンズがいかにイチローを重要な戦力として考えているかの証だろう。

 日米通算であと43本に迫ったメジャー歴代最多の4256安打、あと65本のメジャー通算3000安打、メジャー通算500盗塁に残り2と迫ったイチロー。数字の面での興味も尽きないが、野球を存分に楽しんでいるイチローがどんなプレーを見せてくれるか、来季が今から楽しみで仕方がない。

文=京都純典(みやこ・すみのり)

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