穴埋めは、勝ち星よりも投球回で考えたほうが現実的
広島の絶対的エース、前田健太がポスティングでのメジャー移籍の意向を表明し、球団も容認した。
投手が移籍した場合は「○勝分の穴」と言われがちだが、実際のところ勝ち星は運に左右される部分も大きい。相手打線を0点に抑えても、味方が点をとってくれなければ勝ち星はつかない。エラーによる失点で自責点が0でも負けがつくケースだってある。それならば、勝ち星よりもその選手が投げたイニング(投球回)をどう埋めるかを考えたほうが現実的かもしれない。
前田が初めて規定投球回に達したのはプロ3年目の2009年。8勝14敗と負け越したが、セ・リーグで3番目に多い193回を投げた。以降、今季まですべて規定投球回に達し、2013年は投球回がもっとも少なかったシーズンだが、それでも175回2/3を投げている。今季の投球回は206回1/3。これは、中日の大野雄大に次いで多い投球回だ。ちなみに、広島のチーム全体の投球回は1286回1/3で、前田の占める割合は約16%だ。
つまり広島投手陣は、今季の前田が投げた206回1/3、アウトの数にすると619個分の穴を埋めなければならないわけだ。
BABIPの数値が特に高かった大瀬良大地と野村祐輔
では、広島はどうやって穴を埋めたらいいのだろうか。新外国人選手や新人投手、これまで実績がなかった投手がいきなり200回以上投げてくれれば埋まるが、そう簡単にはいかないだろう。
野球に関するデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考えるセイバーメトリクスの中に、BABIP(※)という指標がある。フェアゾーンに飛んだ打球がどれくらいの割合でヒットになったかを示す指標だが、一般的には.300前後が平均といわれている。今季、セ・リーグの平均は.299で、パ・リーグの平均は.300である。
BABIPの数値が.300を大きく上回った投手は打球の運がなかったともされ、逆に.300を大きく下回った投手は打球の運があったとされる。広島投手陣のBABIPを見ると、大瀬良大地が.336、野村祐輔が.338と比較的高い数値が残っている。大瀬良はシーズン途中、リリーフに転向し及第点といえる成績を残したが、野村は5勝8敗、防御率4.64と不本意な成績に終わった。しかし、BABIPの観点だけをみれば今季の野村は運がなかったとも考えられる。
今季、大瀬良は109回1/3、野村は87回1/3を投げた。BABIPの運が戻った両投手が今季と比べて100イニングずつ多く投げることができれば、投球回に関しては前田の穴は埋まる計算になる。
ほかにも、即戦力の呼び声が高いドラフト1位の岡田明丈(大阪商業大)、2位の横山弘樹(NTT東日本)、今季34試合に登板し3勝を挙げた戸田隆矢など、潜在能力あふれる若手投手も多くいる。前田の挙げた15勝はもちろん重要だが、206回1/3をどう埋めていくか――。若手投手陣の奮起に期待したい。
(※)BABIP
ホームラン以外の打球がフェアゾーンに飛んだときヒットになる確率。打球がフェアゾーン飛ぶ機会が多い技巧派投手の能力を測るときによく用いられる。防御率と同じように結果指数。野手の守備能力、運不運に左右されることもある。この数値をみるときは例年のものと比較するとよりわかりやすい。
文=京都純典(みやこ・すみのり)