体の小ささを武器に最優秀バッテリー賞も賞
研鑽された技術のぶつかり合いである勝負。そこから離れた時に放たれた野球選手の“ことば”――。今回は藤井彰人(阪神)に注目したい。
阪神タイガースのキャッチャーであり、近鉄戦士の生き残りでもあった藤井彰人。高い守備力と明るいキャラクターで愛されたが、17年の現役生活には、職人としてのこだわりがあった。
藤井は1998年、近畿大学からドラフト2位で近鉄バファローズ(当時)に入団。球団合併による分配ドラフトで2005年からは楽天に移籍した。入団当初は山下和彦コーチにキャッチングの基礎をたたき込まれた。特に、ワンバウンドを絶対にそらさないように鍛え上げられたという。それが捕手・藤井の生きる道を決定づけることとなる。
「僕は体が大きい人より、素早く動ける。自分の長所にしようと決めました」
藤井の身長は選手名鑑に170センチと記載されているが、実は168センチ。プロ野球選手としては、かなり小さい部類に入る。本人はコンプレックスを感じていたが、逆に体の小ささを武器として、捕球技術を磨いた。
藤井の努力は実り、楽天のエース岩隈久志(現マリナーズ)の女房役として一時代を築いた。2008年には最優秀バッテリー賞に輝いている。
しかし、プロの世界は厳しい。2010年にライバル・嶋基宏が台頭。藤井の出場はわずか8試合にとどまり、あっさりと正捕手の座を奪われてしまう。その年のオフに出場機会を求めFA権を行使。阪神に移籍した。
捕ることが取り柄の17年間
阪神移籍後も藤井は城島、小宮山、日高、鶴岡、梅野などとレギュラーを争ってきた。藤井は決して全試合に出場する正捕手ではなかったが、捕球、リードを含めた高い守備力でチームに欠かせない存在となっていく。
ある日、藤井はチームのエース・能見篤史にこう言われたという。「藤井さん、僕のフォークをそらしたことがないですね」。新加入した捕手・藤井がエースからの信頼を得た瞬間だった。
2015年も71試合に出場したが、藤井は体力面の不安を理由に引退を表明。会見での言葉は藤井の捕手人生をあらわしている。
「捕ることを自分の取り柄だと思って17年間やってきました」
捕球に絶対の自信を持った“男前”は惜しまれつつもユニフォームを脱いだ。通算成績は1073試合出場、安打は565本。決して打てるキャッチャーではなかったが、“捕球へのこだわり”は17年間という藤井の長い現役生活を支えた。
引退後は阪神から出向し、BCリーグ・福井ミラクルエレファンツのバッテリーコーチに就任する。自らが山下コーチに鍛えられたように、守りで魅せる捕手を生み出してほしい。
文=松本祐貴(まつもと・ゆうき)