バックネットのみの設置だったネットを両ベンチの端まで増設
日本の球場とメジャーの球場の違いとして、「防護ネットがカバーしている範囲」と言う人も多いのではないだろうか。
以前と比べれば防護ネットの範囲が狭くなってきた日本の球場。しかし、臨場感という点では、メジャーのそれにまだ及ばない。
防護ネットの範囲が狭いことによる問題もある。ファウルボールなどによる観客のケガだ。近年では訴訟に発展することもあり、観客の安全面を考え、防護ネットを狭くすることに反対といった声があることもたしかだ。
こういった声はメジャーでもあがってきている。昨年のウインターミーティングにて、マンフレッドコミッショナーはメジャー30球団に対し「2016年シーズンから防護ネットの増設を推奨する」とコメント。波紋を呼んだ。
具体的には、これまで本塁後方のバックネットのみの設置が一般的だった防護ネットを、一塁と三塁両ベンチの端まで拡張するといった内容だ。あわせて、チケット購入時やスタジアム入場時にファウルボールなどについての注意を十分に行うことも推奨している。
義務付けではなく「推奨」という表現だったが、これを受けて今季中にはメジャーのほぼ全球場で防護ネットが増設される見込みだ。
実は、以前から防護ネットの拡張は課題としてあげられてきたが、MLB機構は拡張に慎重な態度をとってきた。というのも、ほとんどのオーナーが拡張に反対していたからである。
球団にとって大口顧客であるシーズンシート購入者の多くが防護ネットの増設に反対していたことに加え、観戦時のケガに関しては機構や球団の免責が明記されているため、これまでは責任問題に発展することはほとんどなかったのだ。
折れやすいバットとスマホが引き金に?
しかし、昨年の7月にオークランド・アスレチックスのシーズンシート購入者が防護ネットの増設を求めて訴訟を起こし、観客のケガも急増していることでMLB機構も重い腰をあげた。では、なぜ観客のケガが増えたのか。要因は大きく分けてふたつある。
まずは、折れやすいアッシュ素材のバットを使う選手が増え、ファウルボールだけではなく折れたバットがスタンドに飛び込む回数が増えたこと。そしてもうひとつは、“スマホ”である。
メジャーで防護ネットの範囲が狭い理由として、「日本は弁当を食べることもあるから両手がふさがり、ファウルボールを避けれきれないかもしれない。でも、アメリカ人は球場でホットドッグくらいしか食べないから、片手は空いている場面が多い」というものがある。
ところが、最近ではスマートフォンで試合の様子を撮影することに夢中になり、ファウルボールなどへの対応が遅れることが増えたという。“スマホ”の普及によって、観客が危険にさらされる機会も、対応が遅れるケースも増えたというわけだ。
メジャーリーガーの間でも、防護ネットの増設に対して賛否ある。日本の一部の球場ではネットの網目を工夫し、以前より見やすくなったところも増えてきたが、そういったネットを使う球場が増えていくかもしれない。
安全をとるか、臨場感をとるか……。日米の球界はしばらくの間、難しい選択を迫られることになりそうだ。
文=京都純典(みやこ・すみのり)