「白球つれづれ」~第1回・秋山翔吾~
いよいよ開幕したプロ野球。野球賭博から金銭授受問題に揺れる中で“いばらの道”からのスタートとなったが、信頼回復には真摯に取り組むプレーでファンの心を魅了するしかない。ワンプレーの持つ意味、今年に賭ける選手の人間模様、グラウンド内外での隠れたドラマ...。かつての名物番記者が、いま球界で起こっている出来事を“様々な視点”からお届けする。
秋山が挑む「4厘」の壁
3戦を通じての満員札止めは、「埼玉西武」となった2008年以降では史上初とか。手に汗握る好試合を展開すれば、自ずとファンも球場に足を運んでくれるというものだろう。
西武では、秋山翔吾の新たな挑戦が始まった。昨年は216本の安打を積み重ね、シーズン安打数の日本記録を樹立。だが、惜しむらくは首位打者を逃したこと。タイトルは同学年のソフトバンク・柳田悠岐の手に。その差「4厘」の壁に迫ってみた。
1番打者には必然がある。他のどの打者よりも打席が多く回ってくる分、安打を量産するチャンスもあるが、凡打の機会も多くなる。中軸が4打席で2安打を放ったとき、トップバッターには5打席回ってくるケースがある。上回るにはもう1本の安打が必要となるわけだ。
昨年の秋山と柳田の首位打者争いを検証してみる。
・秋山=打席675 打数602 安打216 四球 66 打率.359
・柳田=打席605 打数502 安打182 四球106 打率.363
この数字を見れば、一目瞭然である。安打数では秋山が34本も多いが、その分打席や打数も多い。カギを握るのは四死球の差「40」をどれだけ改善するか。これによってタイトルは見えてくる。
「去年は去年」…さらなる高みをめざして
こうした視点で、開幕戦の秋山の打席に注目してみた。オリックスの先発は無類の制球力を誇る金子千尋。しかし、この日は独特の緊迫感も手伝って、そのコントロールが乱れた。そこに秋山の粘りも加わり、第1打席、第2打席とフルカウントの末に四球を選ぶ。
球数を多く要した金子は7回途中までで137球を費やし降板。秋山は最終回にもオリックスの新守護神・コーディエからこの日3つ目の四球を選び、サヨナラ勝ちのお膳立てをしている。
5打席で2打数1安打、3四球。これこそが一番打者の働きであり、柳田との差を逆転するための最善の道だ。
チームNo.1の真面目男にして、練習の虫。「去年のことは去年でおしまい。目の前の1打席に集中してやっていきたい」。日本一の安打製造機の称号にも驕りはない。
いささか話は古くなるが、かつて3000本安打を記録した張本勲氏(元東映、日本ハム、巨人、ロッテ)は現役の頃、首位打者争いが激しくなると、塁上に走者がいる場合にバント安打をよく狙った。
うまくいけば打率がハネ上がり、失敗しても犠打なら打数は増えずに打率も下がらない。これくらいのしたたかさも時には欲しい。
開幕3連戦で5本の安打を叩き出し、4個の四球も選んだ。オープン戦中盤まで苦しんでいた打撃は本調子に戻りつつある。
昨年の「4厘の壁」の教訓をどう生かすのか。今年も秋山のバットから目が離せない。
文=荒川和夫(スポーツライター)