「白球つれづれ」~第14回・独立リーグ~
「独立リーグ」という名称が日本でも認知されだした。しかし、スポーツ紙などで日々の成績は掲載されるものの、組織やそこで切磋琢磨する選手たちの詳細が伝えられることはほとんどない。日本野球機構(以下NPB)に属するセパ12球団に対して注目度も知名度も大きく劣るが、いつかそのNPBの花形プレーヤーを目指して、挑戦する男たちの姿を追ってみた。
今でこそ「日本一」の座を群馬の館林に譲った感のある埼玉県熊谷。それでも十分に熱い炎熱の街で昨年、武蔵ヒートベアーズは誕生した。取材当日の相手は福島に本拠地を置く福島ホープス。このチームの監督は、ヤクルトや米大リーグのタンパベイ・レイズなどで活躍した岩村明憲だ。
四国の独立リーグである「四国アイランドリーグ」の設立から遅れること2年、北信越のチームを中心に「ルートインBCリーグ」(以下BCリーグ)がスタートしたのは2007年のこと。今では8チームが東西ブロックに分かれて覇を競う。秋には四国との間で独立リーグの日本シリーズ(グランドチャンピオンシップ)まで行われている。
元NPB出身者たち
熊谷のグラウンドでは岩村の試合前の動きに目を奪われた。20球ほどのキャッチボールを済ますとマウンドに向かい打撃投手として汗を流す。打席に立っているのは、かつて巨人や楽天でプレーしていたジョン・ボウカーだ。
「もう一度チャンスをつかんでNPBでプレーがしたいんだ」という33歳の外国人らを相手に100球近くを投じた指揮官は休む間もなく、捕手陣を相手に至近距離からワンバウンドのボールを投げていく。捕逸を防ぐキャッチング練習だ。さらに内外野へのノックも始める。同リーグの監督、コーチはトレーニング担当を除けばどのチームも3人程度。1人は投手担当なので、監督だからといってあぐらはかけない。1人で二役三役は当たり前だ。
「ふるさとのプロ野球」を合言葉に地域の振興と活性化を目指すBCリーグ。首脳陣は基本として元NPB出身者で固められている。武蔵の監督は、かつてロッテなどでエース格として働いた小林宏之。ちなみに群馬ダイヤモンドペガサスは平野謙(元中日、西武)、福井ラクルエレファンツは吉竹春樹(元阪神、元西武)と華やかなOB戦が開けそうな顔ぶれである。
野球人の交差点
選手構成を見るとまるで「野球人の交差点」だ。NPBから戦力外通告を受けながら再出発を誓う者。高校、大学ではプロの指名は受けられなかったものの予備軍として成長を目指す者。また、一度は野球をあきらめたのだろう。調理師専門学校に進みながら再びユニフォームでの挑戦を決めた若者もいる。上から落ちてくる選手もいれば下から這い上がろうとする選手もいる。
各球団の選手契約枠は最大27人。給与は月額10万円~40万円で、通常は実働期間の3月から10月の8カ月が基本だから年収は100万に満たない選手もいる。彼らはシーズンオフにアルバイトして生計を立てることも珍しくない。
「プロ(NPB)に行けそうな選手も何人かはいる。でもまだ多くは意識が低く本当のハングリーさが感じられない」と語るのは武蔵のヘッドコーチである袴田英利。昨年まで教えていた西武の一軍勢と比較するのはナンセンスとわかっていてもつい愚痴が口をついて出た。教える側もこれまで以上の根気と忍耐が必要なようだ。
距離感の変化
とは言え、独立リーグの活性化はNPBとの距離を確実に縮めている。かつては1年にひとりくらいだったNPBへの移籍やドラフト指名が昨年はBCリーグだけで12選手(外国人を含む)を数えている。
独立リーグ出身の出世頭といえば現在パ・リーグの首位打者レースのトップを行くロッテの角中勝也(四国リーグ・高知出身)だが、もうひとりの隠し玉?をご存じだろうか?
実はDeNA現監督のアレックス・ラミレスも2014年から15年にかけて群馬で選手兼コーチとして働いている。独立リーグ初の日本一監督だって夢ではない時代が、そこまで来ている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)