“伝統の一戦”で直球勝負の堂々たるデビュー
「超変革」をスローガンに掲げた今季の阪神。10月1日のシーズン最終戦、数多くの若手が台頭してきた今季を締めくくるにふさわしい新星がまたも現れた。ドラフト4位ルーキー・望月惇志だ。
一軍デビューはその最終回に訪れた。相手は巨人。“伝統の一戦”と呼ばれる舞台にも生きのいい若き右腕は物怖じしない。ひとり目のギャレットを直球2球で追い込む。すると、3球目は勢い余って大きく高めにそれてしまった。球速は153キロ。初の一軍マウンドで縮こまるどころか、なんと自己最速を更新してみせた。最後は外角低めにずばりと決まる直球で見事空振り三振。
続く亀井義行には、2ストライクに追い込みながらも、外寄りの直球にうまくバットを合わせるベテランらしい打撃で左翼前に落ちる一軍初被安打を喫した。ただ、その直前に投じた内角直球はストライク判定されてもおかしくないもの。力のあるボールに亀井も思わず腰を引き、観衆もざわつくほどだった。
そして、3人目の中井大介との対戦では、捕手・原口文仁のサインに首を振って直球を選択しニゴロに仕留めると、最後の打者、堂上剛裕には内角高めの直球で完全につまらせて遊ゴロに打ち取った。結果的に、3つのアウト全てを直球で奪う、“らしい”デビューとなった。
直球の球質はメッセンジャーのお墨付き
最大の武器は188cmの長身から投げ下ろす角度のある直球。横浜創学館高時代の最速は148キロだったが、わずか1年で5キロも球速を上げてきた。しかも、その球質がいい。今季開幕前、開幕投手としての準備のために二軍で調整していたメッセンジャーは、望月の力強い直球を目にすると目を丸くし、お墨付きを与えたという。
そして、なによりもその強心臓ぶりが目を引く。デビュー戦での堂々としたマウンドさばきに加え、捕手のリードもあるとはいえ、一軍の打者を相手にも怖がることなく内角に投げ込める。若々しく爽快な投げっぷりであった。
今季、チームは4位に終わった。ただ、高山俊をはじめ、数々の若手が一軍の舞台で躍動したのもまた事実。そこに望月という新たな力が上積みされた。阪神には、星野仙一元監督以降、新監督の就任時はBクラス、その翌年はAクラスという不思議なジンクスもある。来季の金本阪神、期待してもいいのではないだろうか。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)