シーズン12度の猛打賞は長嶋茂雄らに次ぐ新人歴代3位
シーズンの終盤が近づくにつれ気になりはじめるのがタイトルの行方。そのなかで、セ・リーグの新人王レースでは高山俊(阪神)が一歩リードしつつある。
8月24日のDeNA戦で今季12度目の猛打賞を記録。1998年に坪井智哉がマークした11度の球団新人記録を塗り替え、リーグ史上では14度の長嶋茂雄(元巨人)、13度の長野久義(巨人)に次ぐ新人歴代3位となった。残り21試合での新記録樹立も十分に視界に入る。
一時は.250前半にまで落ちた打率も、7月以降の復調でリーグ17位の.275にまで持ち直してきた。さらに、注目すべきは.384という驚異的な得点圏打率。この数字は、2位・桑原将志(DeNA)の.378、3位・筒香嘉智(DeNA)の.375を抑え、なんと12球団トップである。
現在、打点はリーグ14位の53。トップバッターを務めることも多いために決して目立った数字とは言えないが、実は過去30年の新人に限れば、福留孝介(1999年/中日)、長野久義(2010年/巨人)の52打点を抜き去り、片岡篤史(1992年/日本ハム)と並ぶ4位の数字だ。1位・清原和博(1986年/西武)の78打点、2位・高橋由伸(1998年/巨人)の75打点は別格としても、3位・村田修一(2003年/横浜)の56打点は射程圏内である。そして、なによりもこの勝負強さは特筆に値する。
今岡誠を思わせる“変態的”とも言える天性の打撃センス
確かに、三振が多い(リーグワースト6位)、四球が少ない(規定打席到達打者中ワースト4位)など課題はある。だが、臆さず強いスイングができること、たとえ狙い球ではなかったとしても、その巧みなバットコントロールでヒットゾーンに打球を運ぶ力は、新人のなかでは抜きん出ている。
猛打賞の球団新人記録を樹立したDeNA戦で、印象的な打席があった。3回、一死二塁の場面で迎えた第2打席。2ストライクと追い込まれ、久保康友が投じた内角高めの直球に思わず手が出たようにも見えたが、高山は肘をたたみグリップエンドが胸につくような窮屈な姿勢で体をくるりと反転。とらえられた打球はぐんぐんと伸びて右翼フェンスに直撃し、見事な先制タイムリー二塁打となった。これには久保も首を傾げるしかない。決して“美しい”打撃ではなかったものの、チームの大先輩・今岡誠を思わせる、天性の打撃センスを感じさせるものであった。
8月14日の中日戦では、初の左翼への本塁打も放ち、名スラッガーとしてならした金本知憲監督をうならせた。8月の半ば以降、3番打者を務めることが増えており、卓越したバットコントロールと勝負強さに長打力が備われば、クリーンアップに定着していくはずだ。
高山のプロ人生ははじまったばかり。新人王のタイトルを獲得し、これから積み上げていくであろう華麗なキャリアのスタートを輝かしく飾りたいところだ。
※数字は2016年8月28日終了時点
文=清家茂樹(せいけ・しげき)