平成唯一の三冠王が引退
現役続行を目指しトレーニングを続けてきた松中信彦が、現役引退を発表した。通算成績は1780試合に出場して、打率.296、352本塁打、1168打点。プロ19年間で残した成績は素晴らしいの一言だった。
輝かしい球歴の1つに、04年の三冠王が挙げられる。
この年、ともに打線を引っ張ってきた小久保裕紀が無償トレードで巨人へ移籍。軸として引っ張ってきた存在がいなくなり、プレッシャーが増したシーズンとなった。それでも、打率.358、44本塁打、120打点の成績を残し、平成に入ってから初となる三冠王に輝いた。
球界を代表するスラッガーが残した伝説
松中といえば、現役時代に数々の伝説を残している。01年6月2日の西武戦で、松坂大輔(現ソフトバンク)から放った本塁打は衝撃だった。
松坂が投じた内角のストレートで、松中のバットが真っ二つに折れる。ところが、片手で捉えた打球はグングン伸びていき、右中間スタンドに突き刺さった。これには打たれた松坂も思わず「うそ?」という表情を浮かべたほど。
05年7月15日のソフトバンク対西武の一戦では、この時も西武の先発・松坂から2打席連続本塁打を放つと、3-3の同点で迎えた9回裏の打席で、この日3本目となる本塁打を放ち、サヨナラ勝ちを決めたということもあった。
さらに、故障などで出場機会が減少し始めた11年。西武と対戦したCSのファイナルステージでは、牧田和久から代打満塁本塁打を放ち、バットを投げて大喜び。
04年からはじまったポストシーズンでは、重圧からか思うような打撃を披露することができなかったが、その悔しさを晴らす一発を放っている。
NPBの現役にこだわり続けたプライド
一方で、引き際は寂しいものとなった。
その理由としては、昨季限りで退団したソフトバンクで、引退セレモニーまで用意されながらも、自らの“美学”を貫き現役にこだわったことが影響したと言える。
松中はNPBでのプレーにこだわり、1月にはグアムで自主トレを敢行。キャンプが始まってからは、自ら売り込みをかけて行ったが、NPBのチームからオファーはなく、ここでバットを置くという決断に至った。
引き際に未練はあれど、現役時代の実績は十分。同学年の小笠原道大は昨季限りで現役を引退し、中日の二軍監督に就任。その他にも坪井智哉、黒木知宏などがコーチを務めている。今後、松中が指導者として復帰できるか注目だ。