若手の宝庫・日本ハムの“虎の穴”
東京駅から電車に揺られること約30分、船橋駅から東武アーバンパークラインに乗り換えて10分。鎌ヶ谷駅で下車し、徒歩30分ほどの場所に、日本ハムの二軍本拠地・ファイターズスタジアムは佇む。
イースタン・リーグには、巨人、DeNA、楽天、ロッテ、ヤクルト、西武、そして日本ハムの7チームが所属しているが、日本ハム以外の6チームは、一軍の本拠地からほど近い場所にファームの本拠地を置いている。
一軍と二軍の入れ替えが激しいプロ野球の世界。経済的、体力的な負担を考えても、その方がメリットは非常に大きい。
ご存知の通り、日本ハムの本拠地は北海道にある。お世辞にも一軍と二軍の本拠地が近いとは言い難く、他球団から比べるとデメリットを感じることも多いであろう。
しかし、決してアクセスも、周囲の観光地としての機能も恵まれているとは言い難いこの鎌ヶ谷を本拠地とする日本ハムは、「単なる二軍」ではない。
本拠地から離れているせいなのか、独立したチームのような存在であり、地元住民から送られる声援には、自分の町で育った選手を見守る「親心」のようなものを感じることすらある。
現に2015年のデータを見てみると、イースタン・リーグの7チーム中、巨人と楽天に次ぐ3位の動員数を誇るというデータもあり、かなりの大健闘と言えるだろう。
「鎌ヶ谷」から「北海道」へ!
ただし、これは偶然の結果ではない。なぜなら、球団の豊かな発想と来場動機創出への努力があちらこちらに見受けられるからだ。
ファームでは珍しく、最寄りの鎌ヶ谷駅からスタジアムまで片道100円のシャトルバスを完備。アクセスの面での課題を解消している。球場に到着すると、スタジアム敷地内に畑を作ってみたり、夏場にはプールを設置して涼みながら野球観戦が出来るなど、画期的な試みも行なっている。
周辺の交通事情を考慮してか、車での来場者向けの駐車場も解放しており、駐車場内には子供達が遊べる遊具スペースもあるという至り尽くせりぶり。
イベント時には、鎌ヶ谷スタジアム限定のユニフォームを選手たちも着用。一軍チームカラーにない「緑」が基調であり、これは鎌ヶ谷の自然をイメージしたもの。選手寮である「勇翔寮」も敷地内にあり、試合後の選手たちがファンに気さくに手を振る。
ここ数年のドラフトでは下位指名で素材型の高校生や、ときにはソフトボール選手の指名なども行い、鎌ヶ谷で育成して北海道に羽ばたかせるという流れが定着しつつある。
そのため、鎌ヶ谷には常に羽ばたく前のスター候補達がおり、鎌ヶ谷に見守られて巣立っていく。巣立った姿は、鎌ヶ谷のファンはテレビでしか見ることが出来ない。しかし、まさに子を育てる親のように、自立した兄のあとは、まだ巣にいる弟を見守る。鎌ヶ谷の人たちにとって、決して「一軍から落ちてきた選手の受け皿」ではない、そんな印象を受ける。
3月17日の木曜日、この日は一軍のオープン戦が開催された。先発も大谷翔平、対するソフトバンクは摂津正というエース対決であり、球場には4000人を越えるファンが来場した。
それでも、球場にいたファンの多くは鎌ヶ谷スタジアム限定のユニフォームを着て、大谷や中田などのスター選手よりもむしろ、谷口や横尾など、巣立つ手前の選手達に熱い声援を送っていたように感じられた。
今年は何人の若手が鎌ヶ谷から巣立っていくのだろうか…。北海道と鎌ヶ谷は遠いようで近い。