マイナー行きを拒んだルーキー
ア・リーグ東地区、ヤンキースと同地区にボルティモア・オリオールズという球団がある。オリオールとは「ムク鳥」のこと。歴代1位となる2632試合連続出場を果たしたカル・リプケンが、1981年から21年もの間所属したチームとしても有名だ。
そのオリオールズに、韓国・斗山から新加入したのが金賢洙(キム・ヒョンス)。契約内容は2年契約で総額700万ドル。韓国では首位打者1回、最多安打は2回獲得した左打ちのアベレージヒッターだ。
しかし、オープン戦では17試合の出場で打率.178と低迷。メジャーの投手やボールに慣れていないことが最大の理由だった。「もう少し、マイナーで調整してからでもいいのでは」と、球団首脳は開幕ロースター(一軍メンバー)の25人から外すことを、金に伝えた。
ところが、である。金はマイナー行きを「拒否」した。
メジャーではどうなのかわからないが、日本のプロ野球ではまずあり得ないことだろう。ただし、金からしてみれば、契約書にある条項を行使したにすぎない。
金が球団と結んだ契約書には、「球団は選手の承諾なくして、マイナー行きを命じることはできない」とあった。これを盾に、金はマイナー行きを拒否したのである。これに対し、地元メディアは「おかしなこと」と、こぞって疑問を呈した。球団副社長のデュケット氏はもっと辛辣だった。
「開幕メンバーの24人は確保した。あとは選手の問題。彼らはチームが勝つために最善を尽くしてくれるだろう。金だって同じはずだ」。
金をフォローしているようにも思われるが、逆に言えば、とんだ買い物をしてしまったといわんばかり。韓国リーグでは、さっそく金を獲得したいと名乗りを上げる球団も出てきたという。
厳しい見方を覆せるか...
メジャーデビューへの道は前途多難なものとなったが、よく考えてみると、これは球団の考えや見通しが甘かったということに他ならない。金は契約条項を行使しただけの話であり、悪いことではないのだ。
そんなこんなで、開幕前にひと悶着あったオリオールズであるが、開幕3連戦ではツインズを3タテ。日本時間4月9日現在で東地区の首位に立っている。
開幕ダッシュに成功したチームだが、金の出番は今のところない。だが、この男がこのまま終わってしまうのはもったいないほどのすばらしい選手であることはたしかだ。
2008年の北京五輪では、1次リーグの日本戦で9回に代打で登場し、岩瀬仁紀(中日)から決勝タイムリーを放つなど勝利に貢献。金メダル獲得の原動力になった。
2009年には、国内リーグで打率.357、23本塁打、104打点を記録。172安打で最多安打にも輝いた。国内では「安打製造機」、「機械熊」と呼ばれるなど、ヒットを打つことには定評がある。今後はどうにか出場機会を得て、その打撃で首脳陣にアピールしてほしいところだ。
ボルティモアのメディアが何を言おうと、金賢洙には彼らを黙らす活躍をしてもらいたい。そして、厳しい見方を覆さなければならない。
好調な出だしを見せたオリオールズの“25番目の男”…。金賢洙の動向に注目だ。