リーグを席巻したツバメ打線に加わったピース
「セ界の火ヤク庫」――。昨年セ・リーグを席巻したヤクルト打線につけられた異名のひとつである。
1度火がついてしまうともう止まらない。チーム打率、得点、安打数、塁打数でリーグトップの成績を叩き出し、個人でも打率.336の川端慎吾が首位打者、本塁打38の山田哲人は本塁打王、打点105の畠山和洋は打点王と、打撃タイトルの主要3部門をヤクルトの打者が独占した。
山田は打率3割・30本・30盗塁の「トリプルスリー」を成し遂げ、盗塁王と最高出塁率のタイトルも獲得。最多安打も川端が獲得したため、野手のタイトル6部門をヤクルト勢で独占。圧倒的な攻撃力でセ界を手にした。
そんな強力打線に、今年から新たなピースが加わった。昨年オリックスを退団したリードオフマン・坂口智隆である。
最強打線の泣き所を埋めろ!
2002年のドラフト1位で近鉄に入団した坂口。今年で14年目、7月には32歳を迎える。
俊足巧打の外野手として名を馳せ、2011年には最多安打のタイトルも獲得。打率3割も2度記録したが、近年は故障にも悩まされて出場機会が減少。昨年はわずか36試合の出場に留まった。
持ち味であるスピードを売りにするにはギリギリの年齢であり、ケガがちな面は否めない。成績も下降の一途を辿っている中、坂口にラブコールを送ったのがヤクルトだった。
野手陣は軒並み好調だった2015年シーズンにおいて、唯一頭を悩ませたのが外野のポジションバレンティンとミレッジの両助っ人が故障で長期離脱を強いられたことに加え、上田や荒木ら故障者が続出。ライトの雄平以外は固定して戦うことが出来なかった。
そんな事情から、10月のドラフト会議では1位で明治大の高山俊を指名。東京六大学が誇る安打製造機の獲得に乗り出したが、抽選の末に獲得を逃してしまう。かの有名な“勘違いガッツポーズ”である。
こうして目玉の獲得に失敗したチームが白羽の矢を立てたのが、オリックスを自由契約となっていた坂口だったのだ。
拾ってくれたチームへ恩返しを...
ディフェンディングチャンピオンとして迎える2016年シーズンへ向け、チームは素早い補強に着手。11月には坂口のヤクルト入団が決定した。
入団会見で「拾っていただいたことに感謝するしかない。契約をさせていただいた以上は、『絶対にやってやろう』という気持ちがある」と語った坂口。新天地での逆襲を誓うと、今シーズンはここまで59試合に出場。打率は山田に次ぐチーム2位の.308をマークしており、昨年チームが固定できずに苦しんだセンターのポジションを見事に射止めた。
実は交流戦は坂口の得意とする舞台であり、昨年までの通算打率は.327。これは現在もNPBに在籍する選手の中ではトップという数字である。パ・リーグと対戦する立場となった今年も、ここまでの6試合で26打数9安打、打率にして.346と好調をキープ。ヤクルト打線を牽引している。
このところ5連敗中と苦しいチーム状況にあるが、今シーズンも混戦模様のセ・リーグだけにまだまだ望みは捨てられない。坂口が加わった打線はより強固なものとなっているだけに、あとは投打の歯車さえ噛み合えば一気の浮上も見えてくる。
苦しむチームに恩返しを…。新天地で逆襲を期す坂口の奮闘に注目だ。