「最後に強いライオンズが見られた」。田辺徳雄前監督が退任会見の席で話す姿は、どこか誇らしげだった。
3年連続でBクラスに沈んだ西武。一時は最下位となるなど低迷したが、シーズン終盤の8月、9月は勢いを取り戻し、同月の勝率も5割を超えた。
その要因は色々あるが、特にこの二人の輝きが際立った。その二人とは浅村栄斗と金子侑司だ。
高卒8年目の浅村。打点王を獲得した2013年の成績にはやや届かなかったが、全143試合に出場し、リーグ2位となる172安打をマーク。82打点、24本塁打、打率.309は申し分ない成績だろう。
しかし、そんな浅村もシーズン序盤は打撃不振に苦しんだ。4月15日から22日まで7試合連続無安打で、3月末に.476だった打率は一時.175まで落ちた。
浅村はその時を「しんどかった」と振り返る。あまり顔には出さないタイプだが、募る思いがあったのだろう。「頭をリセット」するために4月から2カ月ほど、アメリカンノック(※)や走り込みをした。
そのかいあってか、浅村は徐々に調子を取り戻していった。8月には24試合で、38安打26打点、4本塁打、打率.384の好成績をマーク。月間MVPにも選出された。
最終的には目標であった3割もキープ。「よくここまでもってきたなと自分でもびっくり」と驚きながらも「最後に良くてほっとしている。これからにつながると思う」と手応えを口にした。
浅村の活躍はこれだけではない。今季の浅村は、もう一つ大きく成長した部分がある。
「今年の浅村、よくマウンドに行くようになった気がする」ファンからもこのような声が多く聞こえた。
「去年くらいからコーチとかに言われていたんですけど、自分がいっていいのかなという気持ちがあった」。
成績を残していないのに自分がいくなんて…。そんな思いから、浅村はマウンドへいくのをためらっていたという。
しかし、その考えも一転。今季は打撃不振に陥っていたシーズン序盤から、積極的にマウンドに向かう姿が見受けられた。
「僕が(マウンドへ声をかけに)いくことによって、チームとしても上手くいく。若いときから使ってもらっているので、いかなければいけないと思うし、(いくことで)若いピッチャーが少しでも楽になるのであれば」。そう話す姿は頼もしかった。
「年齢とか関係なく、『勝ちたい』とか、『ピッチャーを励ましたい』という気持ちがあれば自然と体が動く。そういう部分で(浅村は)成長したんじゃないかな」と話すのは渡辺直人。ベテランの目にもその姿はしっかりと映っていた。
浅村は今季、プレー面だけでなく、精神的な部分でもチームを支える柱に成長した。
もう一人はこの男、53盗塁をマークし、オリックスの糸井嘉男と並んで盗塁王を獲得した金子だ。田辺前監督も印象に残っていることの一つとして「金子の盗塁」を挙げており、終盤の強さのキーマンであったことは間違いない。
まさしく今季は、彼にとってキャリアハイのシーズンとなった。春季キャンプで負傷し、開幕一軍こそ逃したものの、4月5日に昇格するとそこからはスタメンに定着。129試合に出場し、122安打、打率.265という自己最高の成績を残し、自身初となるタイトルも獲得した。
「嬉しいです」と、とびきりの笑顔で喜びを語ったスピードスターだが、その裏には、様々な思いが詰まっている。
「悔しい思いをした」と話すキャンプでのケガ。出遅れを取り戻そうと必死だった。「試合に出るためには…」。シーズン序盤、金子がしきりに口にしていた言葉だ。本職は遊撃手ながら、三塁、右翼、そして時には左翼も守った。打順にしても然り。終盤、1番に固定されるまでは2番、7番、8番、9番…。「大変か大変じゃないかと言われれば大変だけど、使ってもらうためには」と腹をくくった。
今季初めから目標に掲げてきた「30盗塁」に向けても、試行錯誤しながら突き進んできた。どうしたら塁に出られるか、今季は今まで以上に考えたと話す。6月の上旬からは嶋重宣打撃コーチとともに、短いバットでティーを行うなど、新たな練習も取り入れた。
「金子は外せないんでね」。7月18日の試合後に指揮官が発した一言。金子はチームにとってなくてはならない存在となった。
7月30日に30盗塁を達成すると、そこからは35、40、45とぐんぐんと数を伸ばした。50盗塁目前には「47で足踏みしてしまって。焦りはあった」。9月19日の楽天戦では右ヒザに死球。それでも痛みをこらえながら盗塁を成功させた。
しかし、神様は最後の最後まで意地悪だった。9月23日の試合で53個目の盗塁を成功させ、リーグトップの糸井嘉男(オリックス)に並んだ金子。しかし、同日の試合で股関節を痛め、翌日から試合を欠場。残り2試合を残して登録抹消となった。
盗塁王は糸井次第。西武の今季最終戦となった28日、金子は「あと2試合、ドキドキしながらいると思います」そう語って球場を後にした。
そして約1週間後の6日。秋季練習初日、金子はチームメイトやコーチ、スタッフから「おめでとう」と声をかけられ、笑顔でそれに応えていた。結局、糸井も53盗塁から数字を伸ばすことなく、盗塁王のタイトルは、金子と糸井で分け合うこととなった。
「最後、限界がきちゃいました」と笑うその顔には、喜びや安堵といった様々な感情が同居していた。「タイトルを取れたことは来季につながる。来季は、最初から最後まで1年通してできるように」とさらなる活躍を誓った。
お世話になった指揮官へ、二人は最高の餞別を贈った。
彼らは来年、27歳になる。野球選手でいえば、若手から中堅と呼ばれる年齢だ。
「必ずや生まれ変わったライオンズを来季、見せてくれるでしょう」。田辺前監督は最終戦のセレモニーでそう期待を込めた。
辻発彦新監督の元、動き始めた新生ライオンズ。来季はこの二人が見せてくれるだろう、「強いライオンズ」を。
※アメリカンノック…右翼(左翼)の守備位置から左翼(右翼)方向に走りながら捕球するノック。
3年連続でBクラスに沈んだ西武。一時は最下位となるなど低迷したが、シーズン終盤の8月、9月は勢いを取り戻し、同月の勝率も5割を超えた。
その要因は色々あるが、特にこの二人の輝きが際立った。その二人とは浅村栄斗と金子侑司だ。
序盤は打撃不振も、安打数リーグ2位
しかし、そんな浅村もシーズン序盤は打撃不振に苦しんだ。4月15日から22日まで7試合連続無安打で、3月末に.476だった打率は一時.175まで落ちた。
浅村はその時を「しんどかった」と振り返る。あまり顔には出さないタイプだが、募る思いがあったのだろう。「頭をリセット」するために4月から2カ月ほど、アメリカンノック(※)や走り込みをした。
そのかいあってか、浅村は徐々に調子を取り戻していった。8月には24試合で、38安打26打点、4本塁打、打率.384の好成績をマーク。月間MVPにも選出された。
最終的には目標であった3割もキープ。「よくここまでもってきたなと自分でもびっくり」と驚きながらも「最後に良くてほっとしている。これからにつながると思う」と手応えを口にした。
精神的にもチームを支える柱に
浅村の活躍はこれだけではない。今季の浅村は、もう一つ大きく成長した部分がある。
「今年の浅村、よくマウンドに行くようになった気がする」ファンからもこのような声が多く聞こえた。
「去年くらいからコーチとかに言われていたんですけど、自分がいっていいのかなという気持ちがあった」。
成績を残していないのに自分がいくなんて…。そんな思いから、浅村はマウンドへいくのをためらっていたという。
しかし、その考えも一転。今季は打撃不振に陥っていたシーズン序盤から、積極的にマウンドに向かう姿が見受けられた。
「僕が(マウンドへ声をかけに)いくことによって、チームとしても上手くいく。若いときから使ってもらっているので、いかなければいけないと思うし、(いくことで)若いピッチャーが少しでも楽になるのであれば」。そう話す姿は頼もしかった。
「年齢とか関係なく、『勝ちたい』とか、『ピッチャーを励ましたい』という気持ちがあれば自然と体が動く。そういう部分で(浅村は)成長したんじゃないかな」と話すのは渡辺直人。ベテランの目にもその姿はしっかりと映っていた。
浅村は今季、プレー面だけでなく、精神的な部分でもチームを支える柱に成長した。
キャンプでの悔しさをバネに…
もう一人はこの男、53盗塁をマークし、オリックスの糸井嘉男と並んで盗塁王を獲得した金子だ。田辺前監督も印象に残っていることの一つとして「金子の盗塁」を挙げており、終盤の強さのキーマンであったことは間違いない。
まさしく今季は、彼にとってキャリアハイのシーズンとなった。春季キャンプで負傷し、開幕一軍こそ逃したものの、4月5日に昇格するとそこからはスタメンに定着。129試合に出場し、122安打、打率.265という自己最高の成績を残し、自身初となるタイトルも獲得した。
「嬉しいです」と、とびきりの笑顔で喜びを語ったスピードスターだが、その裏には、様々な思いが詰まっている。
「悔しい思いをした」と話すキャンプでのケガ。出遅れを取り戻そうと必死だった。「試合に出るためには…」。シーズン序盤、金子がしきりに口にしていた言葉だ。本職は遊撃手ながら、三塁、右翼、そして時には左翼も守った。打順にしても然り。終盤、1番に固定されるまでは2番、7番、8番、9番…。「大変か大変じゃないかと言われれば大変だけど、使ってもらうためには」と腹をくくった。
今季初めから目標に掲げてきた「30盗塁」に向けても、試行錯誤しながら突き進んできた。どうしたら塁に出られるか、今季は今まで以上に考えたと話す。6月の上旬からは嶋重宣打撃コーチとともに、短いバットでティーを行うなど、新たな練習も取り入れた。
「金子は外せないんでね」。7月18日の試合後に指揮官が発した一言。金子はチームにとってなくてはならない存在となった。
手にしたタイトルと自信
7月30日に30盗塁を達成すると、そこからは35、40、45とぐんぐんと数を伸ばした。50盗塁目前には「47で足踏みしてしまって。焦りはあった」。9月19日の楽天戦では右ヒザに死球。それでも痛みをこらえながら盗塁を成功させた。
しかし、神様は最後の最後まで意地悪だった。9月23日の試合で53個目の盗塁を成功させ、リーグトップの糸井嘉男(オリックス)に並んだ金子。しかし、同日の試合で股関節を痛め、翌日から試合を欠場。残り2試合を残して登録抹消となった。
盗塁王は糸井次第。西武の今季最終戦となった28日、金子は「あと2試合、ドキドキしながらいると思います」そう語って球場を後にした。
そして約1週間後の6日。秋季練習初日、金子はチームメイトやコーチ、スタッフから「おめでとう」と声をかけられ、笑顔でそれに応えていた。結局、糸井も53盗塁から数字を伸ばすことなく、盗塁王のタイトルは、金子と糸井で分け合うこととなった。
「最後、限界がきちゃいました」と笑うその顔には、喜びや安堵といった様々な感情が同居していた。「タイトルを取れたことは来季につながる。来季は、最初から最後まで1年通してできるように」とさらなる活躍を誓った。
27歳、西武を背負う存在へ
お世話になった指揮官へ、二人は最高の餞別を贈った。
彼らは来年、27歳になる。野球選手でいえば、若手から中堅と呼ばれる年齢だ。
「必ずや生まれ変わったライオンズを来季、見せてくれるでしょう」。田辺前監督は最終戦のセレモニーでそう期待を込めた。
辻発彦新監督の元、動き始めた新生ライオンズ。来季はこの二人が見せてくれるだろう、「強いライオンズ」を。
※アメリカンノック…右翼(左翼)の守備位置から左翼(右翼)方向に走りながら捕球するノック。